45話 佐々木の初恋と阿崎のジェラシー


 地獄みたいな食べさせっこが終わり、阿崎と割り勘で支払いを済ませてからファミレスを出た。

 競技場へ戻る道中も、阿崎は懲りもせず藍原に話しかけ、俺と佐々木はその後ろを歩いた。

 あの温厚で優しい藍原でさえ拒絶するって相当だと思うんだが。


「モジャモジャも諦め悪いよね。藍原さん、めっちゃ嫌がってると思うんだけど」

「阿崎もそんなこと判った上で藍原に絡んでいるんだと思うが……諦めきれないんだろ。あいつ、ずっと前から藍原のこと目つけてたし」

「……その気持ち、ちょっとだけ判る」

「え、マジで?」

「うん……。誰だって、一度好きになったら諦めとか簡単につかないと思うし、あたしも……そうだし」


 そっか、佐々木はアイドル時代からずっと初恋の相手を一途に想ってるんだもんな。

 だから本命の藍原をひたすら追いかける阿崎にシンパシーを……? いやいや、佐々木の初恋と阿崎のを同じにするのは失礼極まりないような。

 阿崎は藍原が本命とか言いながら色んな女性と関係を持ってるわけで。


 それに比べて佐々木はわざわざ留学するくらい初恋相手のことを一途に——。


 俺の足が止まる。


 そういえば佐々木のやつ、イギリスじゃなくてパリに行ってたんだよな。

 留学先の話をしてる時にちょうど阿崎たちが来たから、話の腰を折られてしまったが、佐々木の初恋の相手が金川流心じゃない可能性も出てきたんだよな……。


「槇島? 急に止まってどうしたの?」

「……さ、佐々木の初恋の相手って、どんな奴なんだ?」

「どんなって?」

「身長とか、年齢とか」

「えぇ……」


 攻めの姿勢で踏み入ったことを聞いてみると、佐々木は眉を顰めしばらく黙ってからおもむろに口を開いた。


「し、身長は、高めで。歳も、あたしと近くて」


 金川は身長190、歳も佐々木の1つ歳上。

 やっぱ予想通り金川流心……?


「優しい顔してて意外と寂しがり屋。そんな感じの……男の子」

「へ、へぇ」


 佐々木はこっちを見て目をぱちくりしながら言った。

 俺は金川の性格までは知らない。

 テレビで見た金川の印象は、もっとゴリゴリでやんちゃそうだったと思うが……。


「判った?」

「判ったって……? あぁ、特徴とかよく判ったよ。佐々木が好きになるんだからきっといい奴なんだよな? ワンチャン阿崎みたいなのじゃないかと心配でさ、あはは」

「……ばか」


 佐々木は一瞬だけその黒マスクを下ろして、「べー」と言いながら可愛らしく舌を見せると、前を歩く藍原の方へ駆け寄っていった。


「な、なんなんだよ」


 佐々木が阿崎を押し退けたことで、今度は阿崎が後ろに下がってくる。


「浮かない顔してんなぁ相棒」

「お前のメンタル少し分けてくれ」

「ダメだ。顔だけじゃなくメンタルまでお前に負けたら俺の勝ち目が無くなる」


 阿崎は俺のケツを蹴り上げながら言った。


「そんなことより、佐々木さんもなかなか可愛いよなぁ」

「は?」

「小柄だけどスタイルいいし腕も脚もほっそいもんなぁ。それに、マスクとメガネ外したらぜってーモテる。俺なら速攻で落と」


 俺は反射的に隣を歩く阿崎の肩を掴んでいた。


「だ、ダメだ。佐々木だけは……ダメだ」


「……ぷっ、必死になってやんの。俺は藍原さん一筋だっつったろ? あと、胸がF無いと俺のタイプに入ってこないし」

「クズが……」

「ま、お前がしっかり佐々木さんのこと想ってんなら上手くいくだろ。俺が保証してやる」


 阿崎は、肩を掴む俺の手を払いながら言った。


「あ、阿崎も……上手くいくといいな」

「嫌味かお前」


 ✳︎✳︎

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