43話 ファミレスでこっそりくすぐり


 阿崎に付き合わされ、俺と佐々木は(おそらく藍原も)嫌々競技場を出た。


 千葉にしては競技場の周りは閑散としており、田舎道を歩きながらやっと見つけたファミレスに入った。

 そこはイタリアン寄りのファミレスチェーン店で、ピザの焼けた香ばしい匂いを漂わせる。

 案内されたテーブルの奥のソファに佐々木と藍原を座らせ、俺と阿崎は手前に座った。


「じー」


 目の前に座る佐々木の目線が痛い。

 いかにも不満そうな目してるなー佐々木のやつ。


「さ、佐々木ちゃん! ほらパンケーキもあるよー」


 佐々木の隣に座る藍原は、ご機嫌斜めの佐々木を宥めるようにデザートメニューを指差した。

 どっちが歳上なのやら。

 舌が肥えた佐々木にとって、ファミレスのパンケーキは解せないらしい。

 グルメな奴め。


「槇島、槇島」


 隣に座る阿崎が、メニューで顔を隠しながら声をかけてくる。

 嫌な予感がする。


「アシストしろ」

「また藪から棒に。あのな阿崎、無謀にも程があるだろ。藍原はお前のこと嫌」

「言うな。それ以上言ったらお前との契約は解消する」

「この悪魔が」


 阿崎はいつぞやの契約を盾にしてくる。


 阿崎の恋愛にアシストをしないと、試合で俺にボールが来ないと言う、シンプルかつ最悪な契約。


「俺はさっきの試合でお前にアシストしてやった。だからお前もここでアシストしろ!」

「はいはい。で、俺は何をやればいい?」


 阿崎は作戦を耳打ちする。

 ……またロクでもないこと考えやがって。


「料理が来たら実行しろ。判ったな?」


 俺は否応なしに頷くしかなかった。

 藍原もこんな男に狙われて可哀想だな。


 俺はため息を吐きながら阿崎からメニューを受け取り、何を頼むか悩んでいた。


 午後も試合あるし、できれば軽めの……。


 俺がメニューを見ながら考え込んでいたら、突然、足元がムズムズしてきた。


 誰かの足が当たっているのか? ……いや、どうせ阿崎の野郎が悪戯してるのだろう。


 と思い、阿崎を1発ど突いてやろうと思い、チラッと下を見たら、阿崎の足ではなく、佐々木の黒ソックスがテーブルの下で俺の足をツンツンしていた。


「どうしたんだ槇島?」

「へっ? なっ! なんでもねえ」

「さっさと決めろよな」


 佐々木のやつ、何のつもりだよ。

 メニューから佐々木の方に目線を移すと、佐々木はニヤッと目を細めた。

 すると、テーブルの下では佐々木の足が俺のふくらはぎや膝を容赦なく撫でてくる。


「ぐっ」


 擽ったいのを我慢すればするほど俺は足に力が入り、神経が集中してしまう。


 テーブルの下の状況を知らない藍原と阿崎は平然と今日の試合のことを話しており、それに対して俺は、佐々木の足にされるがまま。


 な、なんだよこれ……えっちすぎやしないか。


「槇島、いい加減決まったか?」

「ひゃっ。あ、ああ、決まっ。ひゃんっ」

「おま、なんつー声出してんだよ」


 もうなんでもいい、さっさと決めるしかねぇ。

 俺はメニューの上段にあったハンバーグを指差す。


「ふーん。槇島って、こういうの好きなんだー?」


 佐々木は足で俺のふくらはぎを撫でながら、何食わぬ顔で言う。


「くっ……。後で覚えてろよ」


 俺は擽ったいのをグッと堪えて、注文のベルを鳴らした。


「佐々木ちゃん、本当にドリンクバーだけでいいの?」

「うんっ。観客席で軽食摂ったから」


 佐々木は(マスクの事情もあって)ドリンクバーのみを頼み、藍原はランチのホットサンドセット、阿崎はパスタ、俺は苦し紛れに決めたハンバーグを頼んだ。


 ✳︎✳︎

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