41話 早朝にこっそり会いたい
合宿2日目の早朝。
俺は眠い目を擦りながら、スマホで時間を確認する。
まだ朝の5時か。珍しく早起きしたな。
「……ん?」
ロック画面にある時計の下に、何やら通知が入っているのに気づき、押してみるとlimeのアプリが勝手に開いた。
「佐々木から……?」
佐々木から送られてきたlimeの内容を読む。
「……仕方ねーな」
俺は同室2人が寝ているのを確認してホテルの外に出た。
5月初旬になってもまだ多少の肌寒さが残り、ジャージのファスナーを一番上まで閉めながら、俺はホテルの近くにある海浜公園に向かった。
その道中で、見慣れた後ろ姿を見つけ、俺は声をかける。
「おはよ佐々木」
「きゃっ! って、槇島……?」
俺が急に声をかけると、いつも通りの変装をした佐々木は肩をビクッとさせて驚いていた。
「なに驚いてんだよ」
「だって」
「呼び出したのはお前の方だろ?」
「呼び出してないしっ! あ、朝のお散歩でもどう? って、誘ってあげたの」
「はいはい。要するに寂しかったんだな」
「違うから!」
久々に会ったけど、変わらず元気そうだった。
服も夏に向けて軽い感じのワンピースになってるし……昨日の藍原と同じ甘い香りがする。
まだ早朝で、人がほとんどいない海浜公園を2人で歩く。
「ここのホテルに泊まってること言ってなかったのによく知ってたな」
「藍原さんから聞いた」
「藍原?」
「うん。昨日ね、あたしが泊まってるホテルの温泉に藍原さん来てたからその時に」
「一緒に温泉入ったのか?」
「そ、そうだけど……。変な事考えてないよね?」
「考えてねーよ!」
「ほんとー? 槇島のことだから、あたしと藍原さんが身体洗いっこしてる絵でも想像したんじゃないのー?」
全然やましい事は想像してなかったのに、佐々木に言われた事で想像してしまう。
「今想像したでしょ」
「し、してねーよ」
「うっそだー」
「違っ! 昨日の夜、藍原からお前の匂いがしたから温泉一緒に入ったんじゃないかと思ったんだよ!」
「あ、あたしの、匂い?」
佐々木は眉を寄せながら首を傾げる。
「槇島は、そんなこと判るの?」
「違っ……。ご、ごめんキモイよな」
俺は冷静になって、自分がかなりキモイ事を言ったと思い、佐々木に謝罪する。
「ねぇあたしって、どんな匂い?」
「は?」
「教えて、どんな匂い?」
「ど、どんなって……」
隣を歩いていた佐々木は身を乗り出して聞いてくる。
「甘ったるいけど、嫌じゃなくて、よくわかんねーけど落ち着くっていうか」
「ふーん」
佐々木は薄笑いを浮かべながら横目でこっちを見てくる。
こ、こいつ……マウント取った時の顔してやがる!
「槇島はあたしの匂いをくんかくんかして、落ち着いてるんだね」
「俺を匂いフェチの変態にするのやめろ」
「藍原さんと温泉入ったよ」
「急に話戻してきたなおい」
藍原から佐々木の匂いがした謎は解けたが、その代償として誤解が生まれた。
「藍原と温泉入って大丈夫だったのか? 顔とかバレたり」
「大丈夫大丈夫!」
「ほんとか?」
「本当だし。ちょっとやばそうだったけど、誤魔化せたから」
誤魔化す……? まさかバレかけたのか?
「そんなことよりさ、槇島の昨日のゴール凄かったよ! 試合開始してすぐにゴール決めちゃうんだもん、流石だね」
佐々木は純粋に褒めてくれる。
なんつーか、めっちゃ嬉しい、な。
ニヤけそうになるのをグッと我慢する。
「今日さ、今後を占う試合があるんだ」
「そっか……」
佐々木は俺の背中を軽く叩く。
「気合い注入っ。あたしも観に行くんだから今日もいっぱいゴールを決めること」
「……あぁ。絶対に決める」
というより決めないと俺にAチームへの道は無いと思った方がいいよな。
どんな形であっても、得点してAに行くしか無い。
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