21話 添い寝と観戦デート
深夜1時。
12時からずっとベッドの上で天井を見上げでいたけど、なかなか寝付けない。
一方、下の布団で寝ていた槇島は既に眠っているようだった。
女子が隣で寝てるんだからもっと意識してよ!
あたしは自分の胸に手を当てる。
槇島のタイプの女性……か。
歳上って言うのはクリアしてるけど、槇島が隠してたDVDのパッケージにいた女性は胸が大きかった。
あたし、胸は平均的なサイズだし、包容力も無いし、子ども扱いされるし……。
やっぱり槇島は、藍原さんみたいに胸が大きくて、優しい女子の方が好きなのかな……?
今日、病室で見たあの光景がフラッシュバックする。
泣いている槇島を慰める藍原さんの姿。
あたしは槇島よりお姉さんなのに、藍原さんみたいに槇島のこと、慰めてあげられない。
このままじゃ、槇島は——。
……ダメ、弱気になっちゃダメ。
今日は、かなり槇島と距離詰められたし! 何より槇島の方からあたしをデートに誘ってきたんだよ?
大丈夫。槇島はちゃんと"あたし"を見てくれてるもん。
弱気になるな、佐々木絢音っ。
Genesistarsでセンターを取った時と、同じ。トップを取るなら一度だって弱気になっちゃだめだ。
「……んー、佐々木ぃ」
下の布団からあたしを呼ぶ声がする。
槇島の方を見ると、どうやら今のは寝言みたいだった。
もしかして、あたしの夢を見てる……?
「……あ、こら……や、やめっ……そこは……お、おいっ」
うなされる槇島。
き、気になる。夢の中のあたしは、槇島に何をしてるの……?
まさか……え、えっちな⁈
気になりすぎたあたしは、その後も耳をすませていたけど、夢の続きを聞くことはできず、次第に眠くなってきていつの間にか眠っていた。
✳︎✳︎
カーテンから差し込む朝の日差しで目が覚めて、スマホで今の時間を確認する。
朝の、7時……?
あくびをして、ぼんやりと天井を見上げた。
今日のベッドやけに硬いな……それに、天井も遠いし……。
あぁ、そういえば俺は布団で寝たんだった。
「すぅ、すぅ……」
耳元で、可愛らしい寝息が聞こえる。
横目で右を見てみると隣には美少女が…………ん? 美少女⁈
俺の右腕を枕にして、間隣で寝ていた美少女こと、佐々木絢音。
陽光でいつも以上に明るく見える茶色のミディアムショートヘアが、寝癖で乱れている。
「しゃっ、佐々木……っ」
佐々木……寝顔まで可愛いとか、反則だろ。こうやって間近で見るとまつ毛も長くて艶肌で……少しでも触れたら一瞬で溶けてしまいそうな。
寝顔をずっと見つめていたら、急に佐々木の目が開く。
3秒の空白があり、佐々木は次第に頬を赤らめた。
「え? え?」
「おはよう佐々木」
「なっ! なんで槇島が隣で寝てるの⁈」
「それは俺が聞きたい。ここ、俺の布団だぞ?」
「布団?」
佐々木は辺りを見渡して、自分が寝ている位置を確認する。
「ちょっとなんで腕まくらしてんの!」
「知るか!」
「……も、もしかして槇島、あたしをベッドから引きずり落として、いかがわしいことしたんじゃ」
「するわけないだろ!」
佐々木は不審そうにジト目で見てくる。
「俺がそんなことする思うか?」
「……だ、だって」
「デートの前だってのに、そんなことしたら気まずくなるだろ」
「デート?」
「あ」
やっべ、何言ってんだよ俺……。
これじゃ、楽しみで浮かれてるみたいじゃんか!
「違っ! 間違えた! お、おでかけって言おうとしたんだ」
ジト目から一転、佐々木は口角を上げて目を細め揶揄う時の顔になる。
「デート? へぇー、槇島はデートだと思ってたんだ?」
「あ、あのな!」
「ふーん」
「あーもう! デートでもなんでもいい! 俺は何もしてない、分かったか?」
「はいはい、分かってるっ。"デート"を楽しみにしてた槇島クンならそんなことしないもんね?」
佐々木は得意げな表情を浮かべて煽ってくる。
恥ずかしくて今すぐにでも逃げたい俺だが、一度落ち着くため、大きく深呼吸をした。
「ほ、ほら、もう7時だ。朝メシにするぞ」
「うんっ」
その後も、俺がデートって言ったのを散々佐々木に揶揄われたが、朝から佐々木が上機嫌で安心した。
「それにしても、なんでお前は俺の布団に」
「あたし昔から寝相があんまり良くないからそのせいかも。槇島の頭の上に落ちなくて良かったぁ」
「そうだなー、……じゃねーよ! やっぱお前のせいじゃねーか! 分かった上で芝居打ったな⁈」
「だってー。槇島ってなかなか揶揄えないし、おもしろいんだもーん」
「こいつっ!」
そんなこんなでいつも通りの喧嘩しながら朝食を済ませた佐々木は、一度帰った。
朝から色々あって騒がしかったが、やっと1人になれた。
「昼まで時間あるし、洗濯でもするか」
俺は昨日の試合で使った衣類を洗濯機に入れ、部屋にあるさっきまで佐々木が着てた服を手に取る。
やけに生暖かいのが男心をくすぐる。
「い、いかんいかん」
俺は雑念を断ち切って、洗濯機に全部入れる。
こんなところで欲に負けたら佐々木の思う壺だ。
理性を保て、槇島祐太郎。
俺は洗濯ボタンを押し「はぁ……」と深いため息を吐く。
後悔なんて、断じてしてないからな。
その後ベランダに洗濯物を干し、部屋の片付け(ブツを元の場所に戻す)をして、待ち合わせの時間が近くなったらユニフォームを着て高東大駅へ向かった。
✳︎✳︎
駅に着くと、俺と同じように東京フロンティアのユニフォームを着たサポーターが駅へ入って行く。
まだ約束の30分前。
ちょっと早く来すぎたか?
「ハーフタイムショー楽しみだよねー」
「ねー!」
「あーし、連写しちゃおー」
かなりテンションの高い女子サポーター3人組とすれ違う。
ハーフタイムショー? 誰か来るのか?
「まーきしまっ。お待たせ」
女子サポーターたちを見ていたら、その反対方向から佐々木に声をかけられた。
「おお、さっきぶり」
「ねー今、あの女の子たちの方見てたでしょ」
「見てねーよ!」
「ふーん」
メガネ越しにも判る鋭い眼差し。
見てねぇって言ってんのに。
「それより借りたユニフォーム着てきたよー。どうかな?」
緑地で左側には赤の一線が引かれた東京フロンティアのユニフォーム。
そのユニフォームに合わせた膝下までの黒スカート、あと、いつも通りメガネと黒マスクもしている。
「うん、似合ってる」
俺と佐々木のユニフォームは同じ選手のもので、背中には9番の背番号が入り、その真下にはMAKOTOという選手名が刻まれていた。
「今日は人も多いし、色々と気をつけないとな」
佐々木はこくりと頷いて、俺の隣に並んで歩く。
俺たちは電車に乗るとスタジアムへ向かった。
✳︎✳︎
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます