人数合わせで合コンに参加した俺は、なぜか余り物になってた元人気アイドルで国宝級の美少女をお持ち帰りしました。【書籍化・コミカライズ化決定！！！】

17話 一緒にお風呂、何も起きないはずもなく

「お風呂……だと？」

「うん」

　佐々木と風呂……？

　突然、脳内で再生される妄想。

　湯煙の漂う風呂場。

　足を踏み入れた途端、背後からピンクのネイルでツンツンされる。

『ね、槇島。一緒にお風呂……入ろ？』

　風呂場の前で上着をたくし上げ、ヘソをチラ見せする綺羅星絢音。

　俺は咄嗟に目を逸らす。

　しかし、脱衣の音が俺の耳をくすぐる。

『もう、いいよ』

　振り向くと、バスタオル1枚で身体を隠す綺羅星。

　その短い髪を掻き上げながら、舌をぺろっと出して俺のことを誘っ———って、おい！

「なに馬鹿なことを考えているんだ俺は……！」

「槇島？」

　最近、綺羅星絢音のグラビアを見たせいで、脳内再現（イメージ）が容易にできてしまう……。

　これから佐々木が泊まっていくと言うのに、これは由々しき事態だ。

「お風呂で突然死とかよく聞くし、槇島1人だと危ないかなぁって」

「しっ、心配は無用だ！　ヤバかったら風呂からコール鳴らすし。それに、俺とお前が一緒に風呂に入るってのは、異性だし流石に……」

「大丈夫大丈夫、着衣入浴だし」

「ちゃ、くい？」

「服着て入るやつ。それならいいでしょ？」

　なるほど……そりゃ、裸な訳ないよな。

　一瞬、俺が残念そうな顔をしたのを見逃さなかった佐々木は、俺を見下しながらほくそ笑む。

「あっれれー？　まさか槇島、あたしが裸で入ると思ったのー？」

　こいつ、最初から俺を揶揄うつもりでこの話を持ちかけてきたのか⁈

　ならこっちも堂々と反撃してやる。

　クスクス笑う佐々木の両肩を掴み、俺は佐々木から目を離さない。

「えっ、ちょっと、槇島っ！　急に何を」

「……あぁ、思ったよ」

「へ？」

「お前は俺よりお姉さんなんだから俺と一緒でも堂々と裸でお風呂に入ると思ったんだが！　何か問題があるのか？」

　俺が語気を強めて捲したてると、佐々木は唇を震わせながら「はぁ⁈」と叫んで赤面する。

「ま、まま、槇島の変態！　裸で入るわけないじゃん！」

「なぜ赤面してるんだい（CR風）」

「あ、赤くなんてなってないから！」

　佐々木を揶揄って満足した俺は、風呂に入る前にタオルと着替えをタンスから出した。

　着衣入浴とはいえ、佐々木と一緒に入ることは色々と大丈夫なのか、一抹の不安があるのだが……まぁ、さっさと身体を洗ってすぐに出てくれば問題ないか。

「で、お前の着衣入浴ってのは、その服で入るのか？」

「ううん、槇島濡れてもいい服貸してー」

　こいつ、どこまでも自由人かよ。

　俺は仕方なく引き出しの奥に眠っていた高校時代の練習着の上下を引っ張り出して、佐々木に貸してやった。

「くんくん……この服、槇島の匂いする」

「そりゃそうだろ。俺が3年間着てたんだから」

　見るだけであの3年間を思い出すから引退したらすぐに捨ててやろうと思っていたが、結局捨てられなかったし、東京にも持って来ちまった。

　愛着って怖いよな、まったく。

「あれ？　でも星神ってユニフォームは黒かったよね？　練習着は白なの？」

「あぁ。ユニフォームと同色だと……って、なんで佐々木が星神（せいしん）学園のこと知ってんだよ」

「選手権公式マネージャーなんだから、知ってて当然です！」

「お前が公式マネージャーの年は選手権に出てなかったんだが」

「ゆ、有名な高校には監督インタビューで行ったから知ってるの！」

「ならお前がインタビューした星神の監督の名前は？」

「え、ええっとー」

　回答に困った様子の佐々木は、ずっと目を泳がせていた。

　やっぱ判らないじゃねーか。

　だとしたらなんで佐々木は星神のことを知って——。

「きし、はら……岸原監督だったよね？」

「正解。よく覚えてたな」

「ま、まぁ？　記憶力には自信あるし」

　岸原監督、星神学園を何度も全国に導いた名将だが、高校サッカーの知識0の人間が知ってるはずない。

　佐々木のやつ、岸原監督にインタビューしてたのか。

「あたし、これに着替えた後で行くから、先にお風呂入っててー」

「おっ、おう」

　佐々木に促され、俺は着替えを持って風呂場に向かった。

　あいつの記憶力凄いな。

　俺なんか敵チームの監督の名前すぐ忘れちまうのに。

　実力で高東大に受かるだけのことはあるよな。

　俺は横長のタオルで下を隠し、先に風呂へと入った。

　シャワーで身体を流していると、着替え終わった佐々木が入ってくる。

「お待たせー」

　ブカブカの練習着姿で現れた佐々木。

　佐々木は手足が細いため、俺の練習着だと腕周りとか、足の長さが完全に余っている。

「それで大丈夫なのか？　何かの拍子で、お前の下着とか、み、見えちゃったりしないか？」

「残念だったね槇島。ちゃんと黒のアンダーシャツも着たし、下着が透けることもないからっ」

　佐々木はドヤ顔でそう言った。

　黒のアンダーシャツ……？　

　こいつ、勝手にタンスから拝借したな？

「もー、槇島ったら、露骨に残念そうな顔してるっ」

「別に残念とか思ってねーから」

「……あたしのグラビアで興奮して鼻の下伸ばしてたくせに」

「伸ばしてねぇ！」

　佐々木はボディタオルを手に取ると、「背中流してあげるっ」と言って、ボディソープをタオルに付けると背中を擦り始めた。

「……槇島ってさ、意外とムッツリだよね」

「何を言うかと思えば」

「普段はサッカーバカっぽいのに、裏ではあたしのグラビア買ってたりするし」

「そ、それは」

「それにね、さっきアンダーシャツ探してたら、その……なんかっ、こう」

　佐々木の手が止まり、さっきまで達者だった口ぶりも、急に歯切れが悪くなる。

「どうしたんだよ」

「……や、やっぱなんでもない！」

「？」

　よく判らないが、背中を洗う佐々木の力がやけに強くなっていた。