15話 お部屋デートは突然に(デレデレお料理)


 佐々木に部屋凸をされたことで、俺が昨日必勝祈願(建前)で買ってきた、綺羅星絢音のグラビア写真集の存在がバレてしまった。

 黒ビキニで浮き輪に乗りながら、トロピカルジュースを啜る綺羅星絢音が映ったグラビアのページを開きながら、佐々木はさっきまで掛けていたメガネとマスクを外し、不機嫌そうな顔になる。


「なんであたしのグラビア買ったの?」

「……試合前に綺羅星絢音の写真集を買っておけばご利益があるかなぁと」

「ぜったい嘘じゃん!」

「う、嘘じゃねーし!」


 俺は佐々木から写真集を取り返すと、本棚にしまった。

 こんな展開になるとは思っても見なかったので、油断していた。


「頼む佐々木。見なかったことにしてくれ」

「ダメ」

「俺はやましい気持ちで買ったんじゃないんだよ! ただ、そのー、興味本位で、たまたま昨日、書店にあったから買っちゃったというか」

「急に饒舌になるところがさらに怪しい」


 佐々木は腕を組みながら冷ややかな目線でこちらを睨みつける。


「目の前に本物がいるのに、なんでこんなの買うの!」

「だ、だって……」

「だってもヘチマもない!」

「お、お前みたいな! 元アイドルで可愛い奴が近くにいたら、ふ、普通……その時の写真集とかも、気になるだろっ!」

「えっ……」


 っな、何、言ってんだ俺……!

 引退した佐々木に向かって綺羅星時代のこと持ち出すとかタブーだろ。

 それに、過去の写真集買ってるとか、単純にキモいと思われるし……。


「……本気で、言ってるの?」

「ごめん! やっぱ前言撤回で——」


 佐々木は無言で玄関の方へと足を進める。

 お、怒らせちゃった、よな。


 佐々木が帰ってしまう、と思ったその時。


「よいしょっ」


 佐々木は玄関前に転がっていたショルダーバックを手に取って、部屋へ運んでくれた。


「ほら、ご飯作るからあっちで待ってて」


 佐々木は部屋の方を指差しながら、廊下にあるキッチンの前に立つ。


「怒って、ないのか?」

「……あたしはキミよりお姉さんだし。キミがあたしの写真集で何をしていても……怒らないから」


 佐々木は平然とした顔でそう応えた。

「あたしをそういう目で見てたの⁈ キモすぎっ!」みたいな感じで、もっと激怒するものかと思っていたが……佐々木も意外と大人な所があるんだな。

 俺は言われた通り部屋に戻って、ちゃぶ台の前に座る。


「ねぇ、槇島」


 キッチンから佐々木の声が聞こえる。


「あたしって、可愛い?」

「……そりゃ、(国宝級の)お前以上に可愛いやつとか、見たことねーし」


 キッチンからガチャンッという何かを落としたような音がした。


「大丈夫か佐々木!」

「だ、大丈夫大丈夫! ちょっと手を滑らせちゃって」

「やっぱ俺も手伝った方が」

「大丈夫だから! 怪我人は座って待ってて!」


 と、言われてもなぁ。

 佐々木って不器用そうだもんなぁ。


 心配になった俺がこっそりキッチンに顔を出すと、キッチンでは佐々木がやたらとニヤニヤしながらじゃがいもの皮を剥いていた。


 野菜の皮剥くの、そんなに好きなのか?


 声をかけたらまた事故が起きそうなので、俺は黙って部屋に戻った。


——

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