12話 約束の試合(決意とアクシデント)


 大学に入ってからこれまで3試合あったが、俺はこれが2試合目の出場。

 大学最初の試合は、俺のトラップミスからショートカウンターで失点し戦犯になってしまった。


 今日はヘマをするわけにはいかない。


 休憩時間ハーフタイムが終了し、青く澄んだ空の下に戻ってきた。

 芝を撫でる春風。

 目の前に広がる戦士たちの熱気。

 後半開始前に、9番から18番へと交代が告げられる。


「槇島」


 後ろからやってきた阿崎が、いやらしい手つきで俺の尻を撫でた。


「おい! キモいことすんな!」

「緊張してると思ってよ。それより感謝しろよー? 親友の俺に」


 お前はとっくの昔に俺の中では「親友」から「ゴミ男」にランクダウンしてるんだが。


「俺がわがまま言わなかったら、お前は今頃ベンチで指をぺろぺろしてたんだからよ」

「それは……そうかもしれないが」

「今日、観客席に藍原さん来てたろ? それに、お前が合コンで持ち帰った黒マスクの……名前は確か、浅倉さん?」

「佐々木だ。記憶力皆無なのか?」

「Fカップ以下の子は覚えられないんだよ!」

「失礼極まりないなお前」

「とにかく! その笹倉さんも来てるんだから良いとこ見せろって」


 こいつ、サッカーをカッコつける道具にしか思ってないのか……?

 阿崎らしいと言えば阿崎らしいのだが。

 俺は佐々木の方をチラッと見る。


 佐々木は人差し指を立ててこっちに向けた。

「1点とってこいばか」って言ってるような気がした。

 ……可愛くないやつめ。


「阿崎、一つ頼みがあるんだが。いいか?」

「急にどうした。ボケのお前が真面目なこと言ったら冷めるじゃんか!」

「ツッコミの間違いだろ。ボケはお前だ」

「はぁ⁈ 俺がボケだと⁈」

「うるさいうるさい」

「で、頼みって?」

「……スルーパス、どんどん通してくれ。グラウンダー(転がったパス)でも浮き玉でもいい」


 阿崎は「りょーかい」と言って俺から離れていく。

 佐々木との約束云々は関係なく、そろそろ点決めて結果残さないと……。


 焦燥と緊張が入り混じった後半がスタートした。


 俺には運も才能も無い。

 強豪校に入ったのに、高校3年間で1度も全国の芝を踏むことができなかった。


 でも努力は続けた。

 汗だけは人一倍流した。涙も同じくらい流した。その結果、高東大学に入ることができたんだ。


 だから……ここで何もしなかったら、高校と同じことになる。


『なんで槇島なんかが星神の9番なんだよ!』

『星神も堕ちたよなぁ』

『全国優勝どころか出場すらできないとか雑魚すぎるだろ。それに誰だよあのFW』


 俺は星神の9番になりたかったんじゃない。ただ納得のいく結果を、残したかっただけだ。

 あんな3年間、繰り返したくねぇ……!


「阿崎ッ!」

「はいはいっと」


 敵の2CB(センターバック)の間で構えていた俺の足元に阿崎からボールが入る。


「18番は俺が潰す。10番の1年が前に抜けて来るぞ! マーク入れ」


 キャプテンマークを巻いた敵CBの2番が身体を入れて来る。

 俺と2番が球際で競り合ってる間に、マークを引きつけて阿崎が上がって来る。

 俺は阿崎にリターンすると、自分自身も前を向く。


「ナイスポスト。槇島、お前も来いっ」


 阿崎は右サイドに流れながら一人また一人とドリブルで抜き去る。

 俺は、阿崎とは反対の左サイドに向かってダイアゴナル(斜め)に走ることでマークを散らしながら、ゴール前に自分のスペースを作り出した。


 それを感じ取った阿崎が、ゴールの目の前に鋭いクロスを配球。俺の頭上に向けてボールが入ってきた。


 イケる。自主練で阿崎とやってたショートカウンターが成立した。


 都合が良すぎるが、やっぱ信じるべきは親友のお前だったぜ阿崎。


 このまま、ヘディングでゴールに——。


 身体が勝手に反応していた。


 ゴンッという鈍い音と同時に、ボールはキーパーの手をすり抜けて、ゴールへと吸い込まれた。


 これが俺の、大学初ゴール……っ。


 ゴールを確認した俺の頭に激痛が走る。


 目の前がクラクラして、周りを見渡す。

 何か……やけに周りが騒がしい。


 そりゃ、ゴールを決めたんだから当たり前だが——様子がおかしい。


 下を見た時、緑色の芝を、赤い何かが汚した。


「おい槇島! おい! さっさと救護班呼べ!」


 阿崎? なんだよそんな真面目な顔して。

 そんなことより俺、ゴールを決め——。

 そこから段々と、意識が遠退いて行った。


 ✳︎✳︎


———

この話サッカー描写多くて申し訳ない。

次の話からまた新しい展開になります。

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