かぼちゃのばか

からいれたす。

かぼちゃのばか

 爆発すればいいのに! 今年もオレンジが街にいんちきに氾濫する。


 日本のお盆やお彼岸に当たる風習。この世とあの世の境目が曖昧になる日だ。しょせん、爆炎の魔術師の呪文のくせに!


 ふふん、私だって好き好んでピリピリしたいわけではないのだ。


 そもそも私は、あのホクホクした感じとかがどうしても好きになれず、嫌いな食べ物は? という質問にはかぼちゃときっぱりはっきり答えるようにしているくらいのかぼちゃアンチ。


 食事の場でその意を酌んでくれる人であれば、不要にお皿を進められたりしないから楽だし、そこは明確に。


 だいたいですよ、形骸化した外国のイベントをひねって捻じ曲げて別の形に魔改造したらハロウィンなのよ。そもそも独り身にイベントなんて毒なんですから。


 変な思考に支配されていたら、不意に後ろから声をかけられ、振り向くと頬に冷たい指がささった。


「ぶべっ」

「トリックトリート……っぷ、変な声」

「いたずらしてからお菓子を押し付ける変態さんかしら」

 今、オラァっていいましたわよね?


 かぼちゃの仮面を被った人に、チョコレートをひとつ渡される。


「ひどいなぁ。一年ぶりなのに」

「そんなカボホラー面の人なんてしりませんわ」


 ハピバースデートゥミーしようと、コンビニスイーツを購入しようしていれば怪人と遭遇。売り場一帯がオレンジに染め上げられているさまを、胡乱な目で見つめるしかない自分のとなりにかぼちゃ頭。


「かぼちゃのばか」

「まだパンプキンは嫌いかい?」

 パンプキンなんて横文字つかちゃって、オシャレ感をだそうとしたって無駄なんですからね。


「今年の誕生日も日が悪いわ、やっぱり橙と紫だもの」

「でも、ぼくは良い日だって知っているから。遊びにきたんだ」

「また、律儀に。もう良いのですよ」


 そもそも誕生日が十月三一日なのがいけないのだ。私は好きなショートケーキを大好きな人と分けあって食べたいのよ。でもそれは叶わないんだけどね。


「仕方ないなぁ、今年も紫色だけれど一緒にどうかな?」

「ご相伴に預かりましょう」


 直に日をまたぐ。レジで小さなケーキを買って家路を急いだ。今日はもうそんなに残ってないからね。


 今年一年であったことをいろいろと話す。やれ猫をひろっただの、社会人になっただの。本当にくだらないそれだけの話しをずっと。


「なんか私だけで食べてしまってごめんね」

「いいっていいって。この頭だしね」


「ふふっ、それって自虐なの?」

「さぁ?」

 両手をあげて肩をすくめるさまは、日本人らしくはないけれど見慣れたものだった。私の初恋。いとこのお兄さんだ。顔が見えなくてもわかる。


 まもなく零時。そろそろ魔法が解けるから、そっと目をつぶりながらこう言うのだ

「時期的にヤドリギはないけれど、甘いトリックをくださいな」

「また来年」

 私はつかのまの甘やかな気持ちに満たされるのだった。


 コスプレイベントみたいな風潮がある今日このごろだけれど、そんなことはどーでもいいのだ。


 世界の境界が曖昧になる日には素敵なお客さんがくるのだから。





「今年もきてくれてありがとうね…………おにいちゃん」


 大好きな、いとこのお兄さんがかぼちゃになったのは、四年前。


 かぼちゃは大嫌い。でもかぼちゃが大好き。

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