第7話 最終パート~約束~
「――」
全てが消えた浜辺から、ハツネさんは夕陽を見つめる。
戦いは終わった。おそらく、しばらくは地球にラスタ・レルラたちが来ることはないだろう。
そうだというのに、ハツネさんはただ、水平線の向こうを見つめていた。
「……」
僕は、その隣に座りこむ。打ち付けてくる波が、僕らの足元まで迫ってくる。
「……ハツネさん」
「――勇」
その時、やっとハツネさんは口を開いた。
「一緒に、私の星へ来てくれますか?」
そう言ってハツネさんは天上を見上げる。
「この天上の星々のほとんどがグアテガルに支配されてしまいました。だから今度は、それらを取り戻しに行かなければなりません。セレーラ星に行くのは、もっとその後の話です」
「そっか……」
長い旅だな……ふと、そんなことを思った。
「だから……それまで一緒に、戦い続けてくれますか?」
「当たり前だよ」
僕は即答した。
「次は、あんな傷を負わせない。もっと強くなって、ハツネさんを傷つけず勝てるように努力する……そして一緒に倒そう、グアテガルを」
「……ありがとうございます」
「……その時は、私も一緒よ」
すると、突然僕らの間にリアナさんが割り込んできた。
「え……で、でもリアナさんはもう巨大化できないんじゃ……」
「そのことだけどね」
「うわぁッ! どうして司令がここに!?」
「何よ、いちゃ悪いの。別に『鋼衣』回収のついでについてきただけよ。ま、それは置いといて……」
そう言って司令はあるものを僕らに渡す。
それは……どうやら、設計図のようだった。
「これは……船、ですか?」
「そう。宇宙船よ」
「へぇ……宇宙、船ッ!?」
僕はまたも大声を出してしまった。
「そうよ、宇宙船。奪われた星へ攻めに行くんでしょう? なら宇宙船の一つでもないと恰好つかないじゃない」
天知司令が僕にそう告げた後、リアナさんはまたも僕らの間に首を突っ込んでくる。
「それに、仲間もね。仕方ないから私の星を取り戻すついでに、一緒に戦ってあげるわ」
そうして向けた笑顔に、ハツネさんは言葉を失った。
「ぁ……で、でも、そんなところまで付き合うなんて……」
「あら、当然じゃない。だって私たち……」
そして彼女の後ろから、司令部の皆が現れる。
「あなたたちの、仲間じゃないの」
そうして、ハツネさんへ笑い掛けた。
「――…っ」
瞬間、ハツネさんの目から涙が零れた。
「あ、あれ、あんで、どうして……いや、こんなの、恥ずかし……」
「ふふ、別にいいじゃない。私たちの仲よ、今更じゃないの。ね、梶野?」
「そうよハツネさん。私たち、GV立ち上げ当時から一緒なの。だからこのくらい、別に恥ずかしくないわよ」
「で、でもぉ、でもぉ……っ」
「……あ。司令、『鋼衣』の収容が終わったそうです。後は修理しながら帰れますよ」
「了解、小川。それじゃ帰りましょう……私たちの基地へ」
そう言って司令たちは踵を返す。
夕陽を浴びながら、堂々と戦艦の中へ戻っていくのだった。
「……ハツネさん」
その中で、僕とハツネさんだけがその場に残った。
まだ、言い残した言葉があるからだ。
「えっと、こんなことお願いするのは、その、変なんだけど……」
「勇」
けれど、つい大切なところで言葉を詰まらせてしまう僕に、涙を拭いたハツネさんは言葉を掛ける。
「言って欲しいです――その言葉を」
そう告げる目は……まっすぐ、僕のことを見つめていた。その視線に、僕は気持ちを落ち着かせる。
今日ハツネさんが傷ついてわかった。僕にとってハツネさんは特別な人だ。決して失いたくない、大切な人……だから僕は、密かにある決意をしていた。
「……僕の命を守って下さい」
その気持ちを、ゆっくり言葉にする。
「今日僕を守ってくれた時、ハツネさんを失うんじゃないかと思ってすごく怖かった。でも思ったんだ……もしかしたら僕が傷ついた時、ハツネさんもこんな気持ちだったんじゃないかって」
その言葉に、ハツネさんはゆっくり頷く。あぁ、やっぱりそうなんだ。嬉しい気持ちがわきあがってくると同時に、小さく息を吐く。
「あんな気持ち、僕も……多分ハツネさんも、もう二度と味わいたくないと思う。でも、これから今日以上に激しい闘いが待ってるのもわかってる……けれど、それでも僕は、最後はハツネさんと笑っていたいから」
だから、そう言葉を切ってハツネさんに頭を下げる。
「僕の命を守って下さい。代わりに僕はハツネさんの命を守ります。何があっても、絶対に、ハツネさんを死なせたりなんかしません。だから二人で……最後まで、生きさせて欲しいです」
お願いします。そう言い切って頭を下げると。
「……ぷっ」
ハツネさんは、吹き出し笑いを漏らした。
「ふふ、ふふふ……つまりお互いの命を守り合いながらグアテガルを倒せ、というのですか。これはまた、難しい注文ですね」
「し、仕方ないよ……やっぱり、ハツネさんがいなくなるのは辛いんだからさ」
「ふふ、いえ、いいですよ。私も勇を失いたくありません。だからその約束守ってあげます。でも、もしその願いが叶わなかった時は……一緒に死にましょう。もし先に勇が死んだら、私も一緒に死んであげます。だからもし私が先に死んだら、勇も死んで下さいね。でないと寂しいですから」
「それはまた……物騒な話だね」
僕がそう返すと、ハツネさんはまた笑いを零した。夕陽に照らされたその姿は、まるで物騒な話をしてるとは思えないほど爽やかだった。
「だから、死ぬ時は二人で死にましょう。宇宙のゴミとなるときまで、一緒に……でも、もしそうならずに生きてたら……」
そこまで言ったハツネさんはかぶりを振って、気を取り直したように僕へ拳を突き出す。
その意図を理解し……僕も彼女へ、拳を突き出した。
僕たちの拳が、互いに重なり合う。
「勇……最後まで一緒に生きましょう。馬鹿で子供っぽい、愚かな正義を貫きながら」
「ははっ、酷い言いぐさだね」
「ええ。でも……それが私たちの約束です」
そう言って夕陽を浴びて笑うハツネさんの姿は……
「……ぁ」
とても……綺麗だった。
「……これからも、よろしくお願いしますね、勇」
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