第7話 Eパート~少年と少女は共に戦う~

 おそらく次にあの一撃を喰らえば僕もハツネさんも無事では済まないだろう……そして今のハツネさんままじゃおそらくペタシリウスに敵わないであろうことも、僕らは理解していた。

「なら……こうするだけだッ! ドラグオン・フィンガー、来いッ!」

 瞬間、僕らは空いた左手でフォトン・レイピアを握りなおす。

 そして……隣に浮かぶ海辺から、戦艦たちを呼び出したッ!

「了解ッ! グローゥリィー・シップッ、簡略的、承認ッ!」

 そして船内の副司令がボタンを叩き壊すと……戦艦たちのブースターが一気に点火し、僕らの腕へと飛んでいったッ!

「ネイル……コネクトッ! 爪・心・合・体……ドラグオン・フィンガァアアアァァァァァッ!!!」

 飛んできた戦艦たちを、僕らは装備する。そして、とっておきの銀竜の爪を、右手へと装備したッ!

 これで右手にドラグオン・フィンガー、左手にフォトン・レイピアが装備された。

 それら両方の武器を構えると、ハツネさんは僕に尋ねてくる。

「勇、右手は任せられますか?」

「あぁ。ハツネさんは左手を頼む」

「了解です――それでは、行きましょうッ!」

 そして僕らはブースターを点火し……一気にペタシリウスとの距離を詰めたッ!

「ふん……そんな付け焼き刃的戦法が通じると思ってるのッ!」

 そう言って繰り出したペタシリウスの一撃はまさに一撃必閃……僕らを貫く必殺の一撃だったッ!

「はぁあッ!!!」

 それをハツネさんは左手に持った輝くレイピアの切っ先を真正面からぶつけ、わずかに軌道をずらす。

 ぶつかり合い交錯した二つの切っ先が、互いの頬を掠めとるッ!

「はぁあああああッ!!!」

「あぁあああああッ!!!」

 そして激しい剣戟が始まった。

 硬質な鋼の槍と眩い光の剣が数多の響きを上げながらぶつかり合う。全てが必殺を狙うその連撃は、しかしもう片方のカウンターで捌かれ、さらなる剣の応酬を呼び込んでいく。

 剣が剣を呼ぶ乱戦……しかしその横から、僕は右手の鋼爪でペタシリウスの身体を薙ぎ払うッ!

「ッ!? くっ、邪魔しないで……くぅッ!?」

 仕方なくペタシリウスは空いた左手にエネルギーを纏い、右手のドラグオン・フィンガーを牽制していく。だがこちらも一撃の必殺を繰り出していくため、徐々にペタシリウスは押されていく。左右両方から繰り出される高精細な攻撃に、彼女は眼を見開いた。

「な、何なの……ッ、どうしてこんな複雑なコンビネーション攻撃を……はッ!」

 そしてやっと気づいた……テラレグルスが、僕ら左右別々の意思に従って攻撃していることにッ!

「はぁッ! ハツネさん、任せたッ!」

「次、隙を突いて下さいッ、勇ッ!」

 テラレグルスの腕の管理権限を互いに分配、そしてそれぞれの意思に基づいて攻撃をしていく。

 一人で二人分の攻撃。これによってラクシェンヌは実質二人分の攻撃の嵐に晒されることとなる。

 左右異なる思考から繰り出される攻撃に、ペタシリウスは圧倒されていくッ!

 シャンシャンシャンッ、シュバッ、シャンシャァシャアッ!!!

「くっ……! 何故、何故なのッ!? どうして愛しのあの御方と変身した私が、こんな馬鹿げた戦い方に押されて……」

「……10年前」

「え?」

「この闘い方を思いついたのは、10年前のアニメを見た時だ」

「……は?」

 ラクシェンヌが、これまでに見せたことのない、素っ頓狂な顔をする。

「『次元破壊ガランゴロン』で二人のパイロットが協力して戦うのを見た時、僕は二人で別々の操縦系統を利用して戦うことを思いついた。同じようにメイスとの闘い方は7年前に見た『ソル・ライダー~煌めきのタクヤ~』から、ローラとの闘い方は3年前に読んだ『カースト上位をねらえ!』から、イザベラとの闘い方は12年前『勇気王シシガーディアン』の玩具で遊んでる時にアイデアが浮かんだ」

「な、何を言ってるの……ッ! そんなエリート教育、こんな辺境の星で行われるはず……」

「それでも、僕はずっとやってきた」

 その言葉に、ラクシェンヌは眼を見開いた。

「ずっとロボットに乗って戦うイメージは、アニメやゲーム、そして玩具で……もう15年ッ! ずっと作り上げてきたんだッ!」

 瞬間……僅かに生まれた隙を、僕はドラグオン・フィンガーで一気に捉えるッ!

「これなら……ロボットの闘いの想像なら、僕は誰にもッ、絶対に負けないッ!」

 そしてペタシリウスの右手から、三叉槍が弾き飛ばされたッ!

 ガキィイイイイインッ!!!

「ッ! し、しまっ……」

「姉様」

 瞬間、テラレグルスがペタシリウスに肉薄する。

「――あの男が勇より劣ってるとは言いません」

 そして優しい声色で、言葉を掛ける。

「それでも一つだけ言いたいことがあります」

 おそらく……

「――私の王子も、悪くはないでしょう?」

 姉妹の、最後の会話になるであろう言葉を。

 シュッ――

 ズシャァアアアアアッ!!!

「……ぐはッ!」

 そして、決着した。

 テラレグルスの、フォトン・レイピアがペタシリウスの胸に刺さっていた。

 まるで流星のように疾ったその剣筋は……確かにコアの中心を貫いた手応えがあった。

「……私が、あなたに負けるとはね」

「――私だけではありません。私と勇、二人の力です」

「そうね、あの泣き虫のハツネが、一人で私に勝てるはずがないものね……」

 その言葉と同時に、彼女の身体が黒い塵になって消えていく。

「――姉様」

「謝らないで。あなたはあなたの正義を貫いただけでしょう」

 その言葉は、どこか不機嫌そうだった。

「いつもそうだったわ……あなたは自分の正義を私に押し付けて、勝手に憧れてた……私は、そんな綺麗な存在じゃなかったのに。ふふ、あなたもこれから、そのことに苦しむでしょうね……」

 そう呟くラクシェンヌの目は……

「……けど、そうね。あなたに憧れるの、嫌いじゃなかったなぁ……」

 まるで今日ではない、いつかの日々を見ているようだった。

「ぐっ……!」

「ッ! 姉様ッ!」

「はぁ、はぁ……は、ハツネぇ……は、あぁ……わ、私たち……たち、に、気を付け、なさい……――」

 そしてラクシェンヌは息も絶え絶えになりながら、小さく何かを呟き……そのまま、消えていった。

 生まれ故郷ではないこの星で……妹であるハツネに、抱き締められながら。

 不気味な紫色に染まっていた空に、青い光がまた満ち溢れていった。

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