第7話 Dパート~そして少女は、正義の味方となる~

「……駄目だハツネさん、こんな女の誘惑に乗っちゃ」

 けれど、僕は口を開いて反論していた。

「もう、あなたは口出ししないでくれる? せっかく特別に見逃してあげようと思ったのに……それにあなた、この状態でまだハツネを戦わせるつもりなの? この子、こんなにもボロボロなのよ」

 あぁ、その通りだ。僕は結局、苦しんで苦しんで苦しんで……それでも報われるかわからない闘いの道を、ハツネさんに歩ませようとしている。それが正解だなんて……とてもじゃないが、言えない。

「けど、だからってハツネさんに、自分の正義をねじ曲げて欲しくない」

 僕は立ち上がって、前を見る。

「それはあなたの中のハツネの話じゃない? あなたのイメージを勝手にハツネへ押しつけないでくれる?」

「……それでも、僕は貫いて欲しいんだ」

 だってそれが、僕の知ってるハツネさんだから。

 クールに見えるけど実は猪突猛進で、ラスタ・レルラを前にしたらすぐ周りが見えなくなる。

 地球の皆の命は全力で守ろうとする癖に、自分はすぐに命を賭けて無茶な闘い方をしようとする。

 そんな無鉄砲で……けれど巨大な敵へ臆することなく立ち向かう、その勇気に満ち溢れた姿は、まるで僕が憧れた正義の味方のようで。

 だから僕は、ハツネさんに憧れたんだ。

「――ッ!!!」

 そして僕は……そんな彼女に正義の心を捨てて欲しくない。

「困ってる人を助ける彼女こそが……僕の信じる、ハツネさんだから」

 だから、立ち上がるんだハツネさん。こんな敵に敗けるな。

 僕も命を懸けるから。僕も一緒に戦うから。

 僕が……君の側に居続けるから。


「僕はハツネさんに……正義の味方でいて欲しいんだ」


 彼女に、そう『求め』た。


「――」

 そして、ハツネさんは口を開いた。

「――勇、もしかしてあなたは、私が正義バカだと思っているのですか?」

「……え? 違うの?」

「違いますよ。私は決して自分の正義感のためだけに戦ってる訳ではありません」

「え、えぇっ!?」

「なんですかその反応は。私は姉様たちが――グアテガルたちが皆を奪ったから戦ってる。でも、それはただの復讐心からではありません」

 そして、ハツネさんも前を見る。

「――その先に、幸せがあると信じてるからです」

「ッ!」

「今のセレーラ星のままじゃ、グアテガルとその取り巻き以外誰も幸せになれない――だから私は戦うんです。この宇宙に生きる皆の未来を邪魔する敵を、倒すために」

 瞬間、ハツネさんは……フォトン・レイピアの切っ先をペタシリウスへ向ける。

「それが、私の夢――セレーラ星から逃げた時に誓った、願いなのです。皆が幸せを育める宇宙を創る。その願いのために戦う私の姿を正義の味方と呼ぶのなら……勝手にそう呼んで下さい」

 まるで……自分の姉との、決別を示すように。

「……ハツネ。あなたはそれでいいの?」

「ええ。私が次の夢を見るのは、セレーラ星を取り戻した後でいいでしょう……それまでは、正義の味方と呼ばれることとします」

「……そう」

 その言葉に、ラクシェンヌは冷たい視線を送る。

「ハツネったら、どうやら頭までおかしくなったみたいね……あなたのことはお腹だけ綺麗にするつもりだったけど、止めるわ」

 そして、再び三叉槍を構える。

「……頭の中まで全部、綺麗にしてあげる……ッ!」

 今度は、容赦するつもりはないらしい。おそらくドレスが壊れ装甲が弱くなった僕のコックピットを狙うつもりだろう。彼女の殺気が、僕へと突き刺さる。

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