第7話 Cパート~致命傷~

「勇ッ!」

「あぁッ!」

 僕は守備体勢を取る。先ほどの攻撃からどんな攻撃が来てもおかしくない。ならば、全体を守る体勢を取り、隙を見つけないと……ッ!

 そうして前面から来る攻撃に対し万全の体勢を取る。これならばそう簡単に守りは崩せないはずだ。そう、突然後ろから攻撃が来ない限り……

 ……グニャ

「ッ!」

 すると……突然ペタシリウスの三叉槍が、大きく捻じ曲がった。

 長さそのものも伸びているのだろうか、大きく楕円の軌道を描いた三叉槍は、僕らの背後に回る。そしてまるで鞭のように撓り、背面から急襲を仕掛けてきたッ!

「ぐあぁッ!」

 突然の攻撃に為す術もなくダメージを負ってしまう僕ら。だが、正面からはペタシリウスの掌撃が迫り来るッ!

「はぁッ!」

「ぐ……ッ!」

 ドガァァァァッ!!!

 ドラゴンアームを十字に組み、今度は何とかガードに成功する。だが背後で蠢く三叉槍は猛襲を止めることはなかったッ!

 シャアッ、シャアッ、シャアアッ!!!

「ぐあぁッ!」

 背中のガードにエネルギーを向けるも、迫り来る連撃全てを防ぐことができない。背部から正面の胴体の守りを担当するドラゴンドレスが、ついに悲鳴を上げるッ!

 ビキ……ッ!

 刹那、ドラゴンドレスがズルリ、とテラレグルスの身体から滑り落ちたッ!

「隙あり♪」

 そしてがら空きになった胴体……つまり僕が乗るコックピットへ向けて、ペタシリウスは元に戻した三叉槍の切っ先を、まっすぐに突きつける……

 ――グッシャアアアアアアッ!!!

 ……そして、鋼が貫かれる音が、辺りに響いた。

「……あらあら」

 だが、僕は無傷だ。

 三叉槍は僕が乗る腹部を貫くことはなかった。

 代わりに……胸を突き出して三叉槍を身体で止めたハツネさんが、胸部を貫かれる大怪我を負っていた。

 貫かれた胸元から、ビリビリ、と電流が表面へ走る。

「ハツネさんッ!!!」

 ズザッ……

 胸を貫かれる寸前、ハツネさんは感覚共有を切断していた。おかげで僕にダメージはない。

 だがその分……ハツネさんは胸を貫かれるほどのダメージを、自分一人で受け止めてしまったのだ。

「どうして……どうして、こんなこと……」

「……別に、なんてことはありません」

 ハツネさんは、絶え絶えになった息で、言葉を漏らす。

「勇が危なかったから守った……ただそれだけです。だから、気にしないで下さい……」

「ッ!」

 息を弾ませながら告げるハツネさんに僕は硬直する。

 その怪我のレベルはもはや簡単に見過ごせるようなものではない。戦況は、絶望的だった。

「ふふ、そう言いながら、もう虫の息ってところね、ハツネ」

 一方ラクシェンヌは健在だ。綻びの見えないドレスの片手を上げて、ハツネさんへ手を伸ばした。

「でも、もういいのよ……あなたはよくやったわ。滅んだ星のために辛くても藻掻いて藻掻いて藻掻いて……弱い癖に強がって、星の復興のために努力をし続けた……」

 そう語るラクシェンヌの言葉遣いは優しかった。

「無理なんかしなくていい……あなたは普通の女の子に戻っていいの。お父様とお母様、そして星の人々のために、たった一人で戦わなくていいの」

 まるで、かつての姉はこうであったかと示すような……

「大丈夫、今あなたの母星には美味しいご飯もある。ふかふかのベッドもある。あなたの大好きなお姉ちゃんだっている。だからもう、悲劇のヒロインを演じなくていいのよ……もう解放されましょう。そんなボロボロになってしまう仇討ちをやめ、過去を想い出にして……私と、グアテガル様と一緒に、明るい未来を歩みましょう」

 そんな包み込まれるような甘い言葉を。

「……今なら、その男も見逃してあげるから」

 ハツネさんへ、投げかけた。

「……っ!」

 その言葉に、ハツネさんの心が揺らぐのを感じる。

 ふと、この前二人で遊びに行った時のことを思い出した。

 あの日のハツネさんは……普通の女の子だった。どこにでもいる、優しくて、可愛い女の子だった。

 そうだ。ハツネさんだってあんな風に過ごせるんだ。普通に笑って、普通に遊んで、普通に体重を気にして……そんな普通な日常を歩む権利が、彼女にだってあるんだ。

 なのに、今はどうか? 『鋼衣』はズタズタになって、身体もボロボロだ。連戦によって立ち上がるだけのエネルギーも失いつつあって、それなのに目の前の敵に勝てる見込みはない状態だ。

 こんな無茶な闘いを強制する権利なんて……今日楽しんでいたスイカ割りを止めさせる権利なんて、僕にあるんだろうか。

 僕は口元を、一文字に結んでしまう。

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