第7話 少女、正義の味方になる Aパート~姉~
青い空が紫の輝きに染まっている。
陽気な風漂っていた南の島のビーチは生物の気配を感じさせない砂漠と化し、騒々しかった中心部の遊園地は無音が響く死の荒野へと変貌していた。
「さぁハツネ、一緒にセレーラ星に戻ってグアテガル様の奴隷となるのよ。そして二人で、あの御方のために尽くしましょう……」
そう蠱惑的な声で囁くラクシェンヌに、ハツネさんは噛みつくように叫ぶ。
「誰があんな男の下に……ッ! あの男は私がこの手で倒してみせます、絶対にッ!」
「ふふ、懐かしいわぁ。あなた、いつもそうやって人に噛みついていたわよね……最後は私の後ろに隠れていた癖に。挙句は私の真似をして、正義の味方ごっこ……ふふ、やっぱりあなた、今でも変わってないわ」
対してラクシェンヌは余裕を崩さない。口元に浮かぶ妖艶な笑みは、ハツネさんと似ても似つかない。
顔が似てるのに、姉妹という気がしなかった。まるで、別の生物のような存在とすら思える気すらしていた。
「でもダメよハツネ。あなたは……いえ、この宇宙の全ての生物は、あの御方にお仕えするべきなの。そしてあなたはその中でも特別な存在になれる……。心配しなくていいわ。あなたも一晩一緒に過ごせば、きっとグアテガル様の素晴らしさを理解できる。だから、早く私の元へ来なさい」
「行きませんッ! どうして両親を殺した男なんぞに傅かねばならないのですかッ! 私たちがアイツの前に立つ時は、あの無法の星を打倒する時ですッ!」
「あら、つれない……昔はあんなに懐いてくれていたのに。お姉ちゃん寂しいわぁ」
ハツネさんの反論に、ラクシェンヌは寂しそうな表情をする。
しかし……すぐに唇の端を吊り上げ、邪悪な笑みを浮かべる。
「でも、大丈夫よ……あなたがグアテガル様に近づけない理由は、すぐに解決してあげる。そのお腹に宿る……汚物の男を消し去ってね」
「ッ!!!」
瞬間、殺気が僕の方へと向けられた。
「全く、不敬な男ね……そこはグアテガル様だけに許された場所。愚かにもそこへ陣取るなんて……しかも王子なんてちやほやされて、辺境の生物は態度も図々しいのね」
そして、僕の方へと手に持つ三叉槍を向ける。
「でもハツネ、安心なさい……私がその汚れを除菌してグアテガル様に相応しい身体へ洗い直してあげる。だから、抵抗なんて無意味なこと、考えないでね」
「――ッ」
瞬間、ハツネさんの顔から躊躇が消えた。
「そんなこと――絶対にさせませんッ!!!」
同時に、ハツネさんからも殺気が放たれる。
ぶつかりあう殺気……そして、その衝突が、この姉妹がもう分かり合えないことは、部外者の僕でもよくわかった。
「勇、やりましょう」
「う、うん……でも、いいの?」
「はい――あの女は、もはや私の知ってる姉様ではありません……ッ!」
怒りを滲ませながら、彼女の姉……ラクシェンヌを睨みつけるハツネさん。
「……わかった」
その眼差しを感じて……僕も、覚悟を決めた。
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