第5.7話 Cパート~甘味の罠~

「はぁ……満足」

 そう言ってお店を出る僕らに混じって、ハツネさんも『シシガーディアン』の限定プラモ入りのプラモを持って退店していく。その面持ちは少し複雑そうだったのは気のせいだろう。

「楽しかったな……『シシガーディアン』談義……あんな時間が、もっと続けばいいのに……」

「そ、そうですね……楽しそうで何よりでした」

 そんな風に話していると、僕らは既に時間が午後を回っていることに気づいた。

「あの、では勇、今度は私が行きたいところに行っていいですか?」

「勿論! それで、どこに行くの?」

「えっと、この通りに行きつけのスイーツ店があるんです。そこでお昼を食べようかなと」

「いいね、じゃあそうしようか」

 こうして、次はスイーツ店に行くこととなった。

 しばらく歩いて店の前に着いた僕らは、自動ドアの向こうの店内へ入っていく。

 店内は女性でいっぱいで、少し場違いな気がしたけど、今の僕は無敵だから気にしない。なんたって『シシガーディアン』の限定プラモがあるのだから。

「そうだハツネさん、何か好きなもの頼んでよ。ここは僕が払うから」

「え……で、ですがそんなの悪いです……」

 そう遠慮するハツネさんに、僕は首を振る。

「そんなことないよ。なんだかんだ前の店では退屈させちゃったかもしれないからさ。ハツネさんはいつもどれを頼むの?」

「え、えっと、このジャンボストロベリーパフェを……」

「わかった、じゃあそれにしよう。すいません、このパフェ2つで」

「え……! い、勇……!」

「大丈夫。ちゃんとGVから地球防衛の報酬としてお金貰ってるから、このくらいへっちゃらだよ……あ、もう来る。早いね」

 そんなことを言ってる間に店員が持ってきたパフェは、とても豪華なものだった。

 頂点に載ったイチゴに、その回りを囲むホイップクリーム。中のチョコチップスの層の下には、イチゴアイスが待っている。確かにいつも頼みたくなるのがわかる豪華なパフェだ。

「あ、あの勇、本当にいいんですか……?」

「うん、早く食べよう。ハツネさんも、どうぞ」

 そう言って僕はハツネさんにスプーンを渡す。それを受け取った彼女は、金属製の匙を震わせながらパフェを見つめる。

「……そ、そう、ですよね……せっかく奢ってもらえるのなら、いただかないのは悪いですよね……」

 そう言ってハツネさんは匙でパフェの上部のクリームを掬い取る。

 そしてそれを口の中へと運んでいき……

「むふぅ~~っ!」

 口元を綻ばせた。

「勇、やっぱりこのパフェ美味しいですよ! 勇も食べましょう!」

「うん、じゃあいただきます……んっ、本当に美味しいね。クリームがしっとりしてて、全然癖がないや」

「そうなんです! ちゃんと泡立ててるからクリームがふわっとしてて、口の中で優しく溶けていくんです! あぁ、やはりここのパフェはいいですねぇ! あむ……むぅ~~~!」

 またクリームを口にして嬉々と悶えるハツネさん。そんな姿に彼女も女の子なんだなと思いながら、僕も食べ進めていく。

「ん……」

 けれど、思ったより量が多く、僕の食べるスピードはどんどん遅くなっていく。それに気づいたようで、ハツネさんは心配そうにこちらを見やる。

「……食べきれ、ませんか?」

「うん……ちょっと厳しいかも」

 僕は正直に答えつつ、申し訳ない気持ちになる。

 けれど、その時あることを思いついた。

「そうだ……ハツネさん、ちょっと僕の分も食べてくれない?」

「え!? い、いいのですか……!」

「うん、このまま残すのも悪いし……ほら、どうぞ」

 僕はちょっと行儀が悪いと思いつつ、ハツネさんが眼を輝かせてるのを見るに、僕の分を食べるのは嫌じゃないようで少しホッとする。

「そ、そうですね……残すのは店の人に悪いですし……で、ではいただきます」

 そう言って、ハツネさんは僕の食べかけのパフェにスプーンを入れ……匙に載ったクリームを口の中に運ぶ。

「んぅ~~~っ!」

 すると、また嬉しそうな顔をする。

 あぁ、よかった。そんな彼女のリアクションを見て、僕まで笑顔になってしまう。

「美味しい! 美味しいです勇! ありがとうございます……み、店の人にも悪いですし、このまま全部食べてしまっていいですか!?」

「うん、僕じゃ残しそうだし、どうぞ」

「あぁ、ありがとうございます……! んぁむ、むぅ~~~っ! 美味しい、美味しいですぅ……っ! むぁむ、あむ、むぅ……っ!」

 そう言ってハツネさんはパフェを夢中になって食べる。クリームを口の中に運ぶ度、いつも見せない笑顔を零している。何だかそんな彼女を見るのが楽しくて、気づけば僕は彼女の顔をずっと見ていた。

「あぁ、美味しい、美味しい……っ! あむ、むぅっ!」

 そして彼女の笑顔を堪能しながら、僕らはパフェを食べていったのだった。


 ……


「ありがとうございましたー」

 会計を済ませて店を出ても、ハツネさんはまだ笑顔のままだった。

「あぁ、美味しかったです勇! どうでした、ここのパフェは最高でしょう!」

「うん、クリームもふんわりしててとっても美味しかったね」

「そうでしょう! あぁ、私なんだかもっとパフェを食べたくなってしまいました! そうです勇、もう一軒行きましょう! ここから数軒先のお店のプリンがまた絶品で……」


 ……グチャッ!


「……っ」

「わ、ヒールが折れてる……だ、大丈夫?」

「……」

 ハツネさんは応えない。ヒールが折れてどこか怪我したのだろうか。そんな心配をしていると、彼女の顔色がさらに悪くなっていく。

「は、ハツネさん、顔色が悪いよ……ど、どうしよう、とりあえずどこかで休んだ方が……」

「……いえ、体調は大丈夫です」

 そう言いながらハツネさんは顔が真っ青なままだ。

「な、ならどうしてそんな体調悪そうに……そ、そうだ、とりあえず僕が靴屋まで運ぶよ。まずは靴を変えないと街も歩けないし……」

「だ、駄目です!」

 瞬間、ハツネさんは強めに言い返した。

「っ、あ、あの、それは勇に運ばれるのが嫌という意味ではなくて……」

 そうしどろもどろになったハツネさん。だがやがて、観念したような顔をすると、ゆっくりと答えた。

「わ、私……実は、体重が重いんです」

 そんな、乙女の秘密を。

「人間体の時質量は減少しますが……それでも細胞は金属で出来ていますから、普通の人間よりも重くなっているのです。それに加え、エネルギーを高効率で消化するため、補給した食べ物を吸収するスピードも早く……きっと今、かなり重くなっています」

「そっか……えっと、それって僕が運んでいけそうな重さ?」

 僕が問いかけた言葉に、ハツネさんはもじもじしながら首を振る。

「きっと、無理でないかと……私の体重、0.1tあるので」

 t(トン)。確かに意外と重かった。それじゃあ僕に彼女を運べそうにもない。

「え、えっと、なら近くの靴屋でちょうどいい靴を買ってくるね」

「あ……で、でも……」

「動きやすい靴がいいよね。ハツネさん、歩くの早いから」

「あ……」

 そんな彼女の言葉を聞かず、僕は彼女の側を離れていく。

「少し待っててね、すぐ戻るから」

 そういって、僕は近くの靴屋へ向かうのだった。

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