第5.7話 Dパート~乙女心~

「お待たせ、この靴でどうかな?」

 僕はハツネさんのところに戻ってくると、買ってきたスニーカーを彼女に手渡した。

 サイズは合うようだが、彼女の顔は暗いままだ。

「……やはり私には、こちらの方が似合うでしょうか」

「え?」

「こんなオシャレな服より、動きやすいスニーカーの方が私には相応しいですよね……」

「あ……」

 その時になって、やっと僕は自分が選択を間違えたことに気づいた。

 気が動転していて、つい簡素なスニーカーを買ってきてしまった。今のハツネさんはすごくオシャレしてるのに、それとは組み合わせが悪いスニーカーを……。

「え、えっと、ごめん……」

「……」

 僕らの間に、気まずい空気が流れる。

 あぁ、どうして僕はこうなのだろう……そんな自己嫌悪に陥りそうになる。

「……も、もしかしたら怪我してるかもしれないし、ちょっとコンビニでガーゼとか買ってくるね」

「あ……い、勇、待って……」

 そして僕はついその場を逃げ出してしまった。それでさらに自分が嫌になってしまう。

 失望、したかな、ハツネさん……でも、そんな気持ちにさせてしまったのは僕自身だし……。

 そんな自分を責める気持ちがループしてしまう。そしてそんな気持ちに任せて逃げてしまったことに負い目を感じながらコンビニへ向かっていると……

「わっ……!?」

 誰かに身体をぶつけてしまった。まずい、前をよく見てなかった……そんなことを思いながら前を見る。

「ちっ、おい、気を付けろ……ん?」

 すると、そこにいたのは……以前ハツネさんに絡もうとしていた、学園カースト上位グループの男たちだった。

「あれあれぇ……どうしたのかなぁ、氷室さんの友達……君♪」

 そして、彼らは僕の身体に掴み掛かってきた。


 ……


「……勇、遅いですね」

 そう私は道端で一人ごち……そして、頭を抱える。

 嫌われた、だろうか。

 せっかく買って貰ったスニーカーへ、不満のように聞こえる言葉を言ってしまった。勇は急いで買ってきてくれたのだから、スニーカーの柄なんて気にしてる暇はないだろうに。そもそも、私がオシャレしてるなんて彼には関係ないのに。

「……はぁ」

 私は、勇に嫌われたと思うとため息しか出なかった。彼に気に入られるために頑張って限定プラモの発売日を調べたのに。小さなパフェを食べて可愛いと思われたかったのに。結局、その気持ちが全部裏目に出た気がする。

 でも、私はこんな気持ちになってしまうことに少し驚きがあった。以前は、こういうことに興味がなかったのに。むしろ嫌っていたはずなのに。

「なのに、どうして勇をこんなに想ってしまうのでしょう……」

 彼のことを考えると、胸が高鳴り、そしてキュゥッ、と締めつけられる。

 苦しい。けど勇と一緒にいるとこのモヤモヤが和らぐ気がする。だから、彼と一緒にいたくなる。そんなサイクルに、私は飲まれていた。

『あんたの今の顔、姉にそっくりよ』

「……ッ!」

 そして、ふとリアナの言葉を思い出してしまう。あの悍ましき姉と、自分が一緒であるという言葉を。

「……違う。私はあんな姉なんかとは違う」

 私は、胸に浮かんだ闇を振り払うようにそう呟く。

「私が、あんな女なんかと同じはずない……ッ」

 いつの間にか、私は歯を強く食いしばっていた。

 そうだ、私はあんな姉なんかとは違う。

 自分を騙した男なんかのために、故郷の星を売り渡した、あんな男とは……

 その時だった。

 ピロン♪

「ん……勇から?」

 突如メッセージアプリから勇の連絡が来る。

 何かあったのだろうか……そう思いながらメッセージを開くと……

「ッ!!!」

 そこには……ボロボロになって椅子に縛り付けられた、勇の写真が、添付されていた。


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