第5.7話 Bパート~転売ダメゼッタイ~

「わぁあ~っ!」


「ほ、本当にこんな所に寄っていいの?」

「何を言ってるんです、その勇の嬉しそうな顔を見るためにここに来たんです。だから、喜んでもらわないと私が困ります」

 そう笑顔で応えてくれるハツネさんに、僕は感激した。



「それに、ほら」

 そう彼女が指差す先には……今日発売した『シシガーディアン』の限定商品プラモの広告があった。

「以前この玩具で遊んでいるところを見て、勇はきっとこれが好きだと思ってました! なので、一緒に並んでこのプラモを買いましょう! 一人一個限定らしいですが、私も一緒に並びますので、二つ手に入りますよ!」

 そう言って笑顔で列に並ぼうとするハツネさん……その肩を、僕はしっかりと掴んだ。

「え、勇……?」

「ハツネさん、君の気持ちはとても嬉しい。僕は確かに『シシガーディアン』が好きだし、正直このプラモのことが気になっていたから欲しい。でも、でもね……」

 そして僕は、叫んだ。

「僕は、一個で十分なんだッ!」

「……え?」

 キョトンとするハツネさんに、僕は説明する。

「いいかいハツネさん、そもそも今回購入数に制限があるのは人気だからじゃないんだ。いや『シシガーディアン』は放送終了から25年経ても今尚根強い人気はあるけど、それでもメジャーとは言えない。なのに何故個数制限がついているかと言うと、それはテンバイヤーという悪が存在するからなんだ。彼らは商品をわざと大量に買い上げて、それらを定価以上の値段で転売する。それは企業努力で価格を押し下げようとしてきた販売会社にとても失礼なことなんだ。けれど悲しいかな、そんな彼らの想いは届かず一向に法整備は進まない。だから仕方なく小売店は今回のように購入制限を設けたんだ。確かに企業にとって商品が大量に売れることは望ましいかもしれない。でも彼らはそれ以上に僕らに商品を手に取って欲しいと思ってるんだ。そんな彼らの努力を無駄にはしたくない。また、僕は改造やコレクションを楽しむための複数買いは望まない。よって僕は一個あれば十分なんだ。欲しくないとは決して言わない。でも、僕が2個買えばその分買えなくなる人がいる。そう思うだけで僕の心は苦しみに堪え切れなくなるんだ。だからハツネさん、君の気持ちはとてもありがたいけど、今回は僕一人で行かせてくれ。幸いまだギリギリ買える状況にはあるみたいだ。そして、そう思っている同好の士は必ずいる。彼らが一人でも多く買えるように、申し訳ないけど今回ハツネさんは並ばないでいて欲しいんだ。ごめん、本当にごめん……ッ!」

 そう言って頭を下げる僕に、突如拍手が送られる。

 おそらく、これは同好の士による者だろう。この葛藤を、分け合える仲間がいる。そう思うだけで僕は涙が出そうになった。

 皆、頑張って生きよう。そしてテンバイヤーに打ち克とう。僕らの幸せなロボットオタクライフのために、皆で頑張ってこの神から与えられた試練を乗り越えようじゃないか。

 嗚呼、素晴らしきロボット。素晴らしきオタク人生よッ!

「……あ、あの、じゃあ私は自分で組み立てるので、一緒に並んでもいいですか?」

 刹那、僕らは視線で緊急動議を始める。そして数瞬の間議論に議論を慎重に重ねた結果……

「それならOK! じゃ、一緒に並ぼうか!」

 僕らは、新たなる同好の士を迎え入れることとするのだった。

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