第5.7話 少年、デートと気づかない Aパート~お洒落~
「えっと、ここだよな……」
まだお昼というには早い時間、僕は街中にいた。
『勇、明日一緒に買い物へ行きましょう』
そう突然ハツネさんに言われた僕は、彼女と買い物へ行くこととなった。
彼女と一緒にお出かけするのは初めてではなかったためか、不思議と緊張感はなかった。
大分、ハツネさんとも打ち解けてきた気がする……それが嬉しくて、僕は自然と笑顔が浮かぶ。
そして待ち合わせ場所に着くと、そこには既にハツネさんがいた。
「あ……こ、こんにちは、勇」
「……っ!」
瞬間、僕は彼女の姿に、思わず眼を奪われてしまった。
綺麗だ。普段から美しいハツネさんが、さらに美人に見えた。
ゆったりとしたカーディガンを羽織り、長めのロングスカートを履く彼女は大人びて見える。
靴もいつものGVの支給品ではなく、コルクのような外見のベージュカラーの高めのヒール。そして髪も肩までセミロングの髪を流している。
編み込みを解いて銀色の髪を伸ばしている彼女はいつもよりぐっと大人びた雰囲気をしていて、僕は何故か緊張してしまった。
「あ、あの……すごく、オシャレだね……」
「あ……は、はい、ひ、久しぶりの休日なので、たまには、目いっぱいオシャレをするのも悪くない……と、梶野女史に言われ、まして……」
そう言われて、僕はハッ、とする。
あぁ、そっか。女の人って外へ出る時はいつもすっごくオシャレしていくもんな。なら今日ハツネさんがすごくオシャレに見えても、それは別に特別なことじゃないよね。
僕は舞い上がりそうになっていた心をどうにか鎮め、ハツネさんに向き合う。
「そ、そっか……そうだよね、ハツネさんも女の子だもんね……」
「……あの」
「うん、どうしたの?」
そう僕が尋ね返すと、ハツネさんは上目遣いで僕を見つめてくる。
「その……今日の私……どう、ですか?」
その言葉に、僕は少し心を高鳴らせながらも頷く。
「う、うん……すっごく綺麗だと思う……」
「ッ!」
その言葉に、ハツネさんは笑顔になる。
「そ、そうですか……それなら、よかった、です……」
そう言ってもじもじするハツネさん。
そっか、ハツネさんも不安で緊張してたのか……そう思うと僕はなんだか緊張がほぐれてきて、いつも通りにハツネさんと接することができるような気がしてきた。
「うん、それじゃ、行こうか」
「あ……ま、待って下さい」
そう言って街を歩こうとすると、ハツネさんは僕の服の裾を引っ張る。
「あ、あの、勇……少し、お願いがあるのですが……」
「うん、何?」
「あの……手を、繋ぎません、か?」
そう恥ずかしそうに告げるハツネさん。
確かに、手を繋ぐって子供っぽいもんな。でも人が多いし、はぐれないようにそれもありかも。
「わかった、それじゃ繋ごうか」
「ッ! は……はいッ!」
ハツネさんは声を弾ませると、僕の手と自分の手を繋ぎ合わせる。
思ってたより、冷たい。そういえば梶野さんが女の子の手って冷たいらしい。宇宙人もそうなんだな……そんなことを考えながら、僕とハツネさんは街を歩いていった。
「あ、あの、勇……私の手、どうです、か……」
「え?」
「そ、その……少し重かったり、しません、か……?」
それまで黙っていたハツネさんが告げた質問に、僕は少し悩む。
「えーと……そうは思わない、かな。だって僕、人の手を握るのは初めてだし」
「あ……そ、そうなんですか?」
「うん……だからハツネさんと手を繋げるの……結構、嬉しいかな」
「ッ! そ、そうですか……」
ふと、ハツネさんの僕を握る手が強くなった気がする。
嬉しい……のかな? ならよかった、とちょっと思う。
少し恥ずかしい気もするけど、でもはぐれるのはまずいし、しっかりハツネさんの手を握っておこう。
そう思って、僕は彼女の手をしっかり握り直した。
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