第5.5話 Dパート~アオハル~
「位置について、よーい……ドンッ!」
パンッ!
そして変身を解いた僕らは、再び体育祭へと戻っていた。
なんとか怪しまれないように学校へ戻ると、僕はすぐにスタートラインの上に立たされた。闘いを終えた僕は多少の疲れは残りながらも、昂った気持ちのまま構えを取る。そしてコースをしっかり見定めたまま、号砲と共にグラウンドの上をまっすぐ走っていた!
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……っ!」
悲しいながらも、相手とは距離が出来てしまう。しかし、いつもよりその差は小さく感じる。とにかく僕は相手と差が付けられないように頑張った。
「つま先で、蹴るッ、つま先で、蹴る……ッ!」
とにかく野崎先輩の言いつけを守りながら走り……ついに、第2走者のハツネさんの元へ辿り着いた!
「はぁ、はぁ……は、ハツネさん、お願……」
その瞬間だった。
ハツネさんの様子がおかしいのに、気づいたのは。
……
僕らは、敗けた。
大きく差がついたのは、ハツネさんが走っている時だった。
戦闘による疲れ、そして変身で受けた傷を直すことに力を注いでしまったため、ハツネさんの体力は既に底をついていたのだ。
その状態で上手く走れることが出来ず……結局、後半の走者でも挽回できないほどの差を付けられて、僕ら白組は敗北してしまったのだ。
「申し訳ありません、勇……私のせいで……」
ハツネさんが謝ることではない。むしろ、僕がハツネさんにダメージを受けさせ過ぎたせいで……。
そんな考えに取り憑かれながら、僕ら二人は夕陽の下グラウンドで互いに悲しみに打ちひしがれる。紅組の歓喜に沸く声が聞こえる。それがさらに僕らの絶望を深めていった。
だが……
パァアアアンッ!
「い……っ!」
瞬間、背中に痛みが走った。
野崎先輩が……背中へビンタを加えたからだ。
「はっはぁッ! よくやったなお前たち! 浅谷! お前はよく言いつけを守ったな! 氷室君! 君も調子の悪い中よく頑張ってくれた! その頑張る姿に私は心打たれて……」
「それでも、勝たなければ意味がないのですッ!」
瞬間、ハツネさんの怒鳴り声が響き渡った。
僕は眼を見開いた。おそらく、彼女が勝ちにこだわったのはセレーラ星のことがあったからであろうことは、先輩たちには伝わらない。けれど、それが理解できる僕にとっては彼女の叫びがより悲痛に感じられた。
ハツネさんが感じた絶望に、僕は何も言えなくなる。
「……なら、次頑張ればいい」
けれど、野崎先輩はそう笑顔で返した。
「っ、で、ですが、あなたはもうこれで卒業じゃ……」
「別に構わない。もし私の犠牲が君たちの次に繋がったのなら、それは本望さ。浅谷君、氷室君。今日君たちが頑張ったことは、決して無駄にならない。おそらくこれからの人生、今回とは異なる場面で、きっと役に立つはずだ……その糧となったなら、私は今日頑張って走った甲斐があるというものだ」
そして、野崎先輩はニカッ、と笑う。
「改めて言おう。浅谷、氷室君。君たちはよく頑張った。例えハンデを持っていても諦めずに走る君たちの姿に、私は姿に心打たれた。今日は白組の代表として走ってくれて、本当にありがとう。心から、感謝するよ」
そう伝える野崎先輩は、僕に手を差し出した。
少し迷った後、僕はその手を握った。すると、先輩は力強く握り返してくれた。
それが嬉しくて、僕も先輩の手を強く握り返した。
辺りを夕陽が包む。肌を同じ色に染めた僕と野崎先輩は、共に笑顔になる。
そして……僕らの体育祭は、幕を閉じた。
僕の肌は、体育祭が始まる前に比べて、ほんの少しだけ日焼けしたのだった。
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