第5.5話 Cパート~襲撃~

「うおおおおおおおっ!」

 体育祭は今、最大の盛り上がりを見せていた。

 現在僕らが所属する白組は500点、対する紅組は510点と見事なまでに競り合っていた。

 そしてついに最後の競技、団対抗リレーが始まる。これで勝てば僕らが逆転サヨナラ勝利できるという超重要場面だった。

「ファイト、ファイト、紅組ファイトぉっ!」

 だが相手も敗けていない。声援を送るのは莉奈さんことリアナさん。露出の多いチア衣装に身を包みチームを鼓舞する姿に、紅組のメンバーは奮起していた。この指揮が高い状態の紅組を打ち破るのは簡単には行かないだろう。

「でも、やるしかないんだ……!」

 先輩に全力を尽くすと約束したんだ。なら、やるしかない。

 僕の中には、不思議と昨日までの悲壮感はなかった。むしろ、燃え上がるやる気しかない。勿論僕が勝つのは難しいけど、それでもいい勝負になる気はする。そうすれば、他の皆が補ってくれるはずだ……そう思うだけで、僕の気持ちはとても軽くなっていた。

『お待たせしました。団対抗リレーの時間です。選手は位置について下さい』

 そのアナウンスと共に僕はスタートラインに立つ。そして号砲を構える生徒の掛け声に合わせて構えを取った瞬間……


 ドゴォオオオオオオオンッ!!!


「ッ!」

 突如、学園の裏山から轟音が鳴り響いた。

 そして僕が振り向くと、そこには巨大な人型の怪物が大きく腕を振り上げ立っていた!

「ラスタ・レルラ……!」

 こんな時に……! そう歯噛みした僕は皆が逃げる向きとは逆方向に走った。

 そして、それに合わせるように、ハツネさんが並ぶ……ッ!

「勇、行きましょう!」

「うんッ!」

 そして、僕らは変身した。

 白銀の巨竜人、レグルス・フィーネへと……!


 ……


「む、来ましたね」

 そう精悍な声を上げるラスタ・レルラの前に僕らは立つ。

 今回の敵は細身の男だった。しかし、その身体にしっかりとした筋肉が付いているのがわかる。僕らは強敵の予感を感じ、しっかりと構えを取る。

「一応名乗っておきましょう……我が名はコンシャス。イザベラ様の執事を行っていた者です。お察しの通り……今回は姫様の、弔い合戦をさせてもらいますッ!」

 そしてその言葉と同時に、コンシャスは手に持った剣でこちらへ切り込んでくるッ! 速いッ! 僕らは紙一重の所で避けようとした……

「ッ!」

 しかし、僕らは咄嗟に脚を踏ん張らせ、敵の攻撃を受け止める。ここで止めないと、学校に被害が出るからだ。ハツネさんのサジェスチョンによりなんとかガードに成功したものの、敵に切り込まれる不利な体勢となってしまう……ッ!

「どうしましたか鋼姫……! 姫様を倒した時は、そんなひ弱でなかったでしょう……ッ!」

 そう剣による圧を強めてくるコンシャスに押されてしまう僕ら。

 合体が出来たらいいが、この状況では学校も傷つけてしまうかもしれない……そう思うと僕らは変身の一歩が踏み出せないでいたのだッ!

 そんなことを知らぬラスタ・レルラは一歩下がり、今度は刺突の連撃を加えてくる。まるで刃の雨がごとき剣撃を前に、僕らは何も出来ない……!

「くぅ……ぐぅッ!」

 ハツネさんの身体が傷ついていくのを感じる。ハツネさんはコアを破壊されない限りどんな怪我でも治るというのは理解しているものの、このまま攻撃を喰らい続けたらまずい。

「痛いですか、痛いですかぁッ! ですが姫様が受けた痛みはこんなものではありませんッ! もっと、もっと姫様の苦しみを、わからせてあげましょうッ! はぁああああッ!」

 そう言ってコンシャスはさらに刺突を激しくする。

 そして一瞬の閃きが、レグルス・フィーネの腕を大きく抉った!

 ガシャアアアアアアッ!

「くぅ、ぐぅぅ……ッ!」

 やはり、無理してでも変身すべきだろうか……そう思った瞬間だった。

「頑張れ、ロボット!」

 誰かの声が、聞こえた。

「敗けるな、頑張れロボット!」

「頑張ってー! 敗けるなーロボットー!」

 一人、また一人と声援が上がっていく。その声たちはどんどん大きくなり、気づくとレグルス・フィーネの装甲で感じられるほどの大きな声援となっていた。

 僕たちを、応援してくれている。その気持ちに、昨日のことを思い出す。

 そうだ。野崎先輩と約束したんだ。団対抗リレーで頑張る……その約束をまだ果たせていない。なのに……こんなところで、敗けられないッ!

 そう思った瞬間、力が湧き上がってくるのを感じる!

「勇、あなたもですか……」

「ハツネさんもそうなんだね……」

 ハツネさんの心も昂っていってるのがわかる。おそらく、今胸に抱く気持ちは一緒だろう。

 僕らは、今胸に湧き上がってくる気持ちを抱き締め、強く噛み締める。

「頼む、ロボット!」

 その瞬間、野崎先輩の声が聞こえる。

「これから後輩の晴れ舞台なんだ! 彼の努力を無駄にしたくない……頼む、勝ってくれぇ!」

「……えぇ、わかってます。野崎先輩ッ!」

 そして、僕らは腕でガードを作ったまま……無理やり、前へ進んだッ!

 ギィィィィィッ!

「むッ!?」

 腕で受け止めた剣筋を辿るように、前へ突っ込む僕ら。そして、肉薄したラスタ・レルラを前に、僕らは体当たりしたッ!

 ドゴォオオオオオオオンッ!

「ぐぅうう……ッ!」

 この行動は予測できなかったのだろう、戸惑いを見せたコンシャスが、大きく後ろへ後退するッ!

 今だッ!

「ドラピア、リコンストラクトッ!」

 ドォンッ!

 僕らは近くに待機していたドラピアを呼び寄せ、この装備だけと合体する。

 レグルス・フィーネの頭に、精悍に伸びた角が装備された。

「行くよ……ハツネさんッ!」

「えぇ、わかりました、勇ッ!」

 そして僕らは前に出たッ!

「むッ!?」

 一方敵は隙を見せまいとすぐに構えを取り直そうとしていた。だが、まさか連続で突進が来るとは思わなかったのだろう。カウンターの構えを取っていたコンシャスは戸惑いを見せるッ!

「くっ……ここぉぉぉッ!」

 それでも、相手は必殺のカウンターを放つ。それはレグルス・フィーネの進路上を綺麗に突いた、見事な突きであったッ!

「はぁ……ッ!」

 だが、僕は思い出した。

 先輩に教えてもらった指導を。先輩が教えてくれた、走り方を……ッ!

 シュバァアアアアッ!

「な……ッ!?」

 予想外の加速を見せたレグルス・フィーネに、敵の突き出した一撃は完全に空ぶってしまうッ!

「はぁぁぁ……ッ!」

 そして僕らは突進する。急ごしらえのカウンターにより、大きく隙の出来た相手の懐へ……必殺の一撃をぶつけるためにッ!

「白・銀・加・速……レグルス・タックゥゥゥゥゥゥウルッ!!!」

ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!

「ぐおふぉぉおおおおおッ!?」

 刹那、装備されたドラゴンホーンが相手の懐へ衝突した。ねじ曲がった角が、相手のコアごとまっすぐに貫くッ!

「はぁぁぁぁぁ……ッ!」

 さらに僕らはそのまま身体をひねり、頭をあげようとした瞬間……

「はぁああああああああああッ!」

 そのままドラゴンホーンの角槍で……コンシャスのコアを裂き壊したッ!

 グシャァアアアアアアアアアッ!!!

「グッ……ひ、姫様……申し訳ございませぇぇぇぇぇんッ!」

 そして、コンシャスの身体は塵へと消え……そのまま光となって消えていったのだった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る