第3話 少年、決意する Aパート~同棲~

 チュン、チュン……ッ

「ん、んぅ……っ」

 外から雀の声が聞こえる。その音が僕を目覚めに誘うが、まだ眠気の誘惑に浸っていたい僕は無理やり現実から逃げようとする。

「……て下さい……起きて……」

 だが、誰かが体を揺する。母さんだろうか。なら珍しい。僕を起こしに来るなんていつぶりだろうか。

 でもまだ眠い僕は、布団の中にくるまったままでいたい。

「う~ん……母さん、もう少し……」

「――私は、あなたの母親ではありません」

「……え?」

 だが、その凛とした声が耳に入った瞬間……僕の心に、眠気覚ましの水がかけられたような気がした。

「――もう朝ですよ、勇」

 そして、今度こそ理解する。

 その声の主が……ハツネさんであるということを。

「ッ! わぁああぁッ!? ハ、ハツネさん!? どどどうしてハツネさんがウチに……」

「何を言ってるんですか――昨日は一緒のベッドで寝た癖に」

「ッ!?」

 その言葉に、僕の脳が沸騰する。

「い、一緒のベッドにって……そんな、そんなぁ……べぐッ!」

 瞬間、ベッド横の壁に頭をぶつける。金属でできた壁に思いっきりぶつかり、頭蓋がジーンと揺れる。

 そしてそのまま、今度は眠気じゃなく痛みによって、僕は意識を奪われていくのだった。


 ……


「あははっ、じゃあそのたんこぶはその時に出来たのね」

「……はい」

「ふふ、朝から災難だったわね」

 そう笑う梶野さんと一緒に朝食を取っている場所は、GVの基地上部の一つ。都内にある寮型マンションの食堂だった。

 昨日ラスタ・レルラとの闘いを終えた後、僕はその間並行して行われていた両親との交渉によってこのGVが保有する寮へと移住することが決定していた。

 僕がその寮の部屋に入る頃にはほとんど以前の自室と変わらない様子となっていた……ただ一つ、ベッドがダブルベッドになっていたこと以外は。

「まぁ、仕方ねぇだろう。もう寮に空き部屋はなかったし、これからお前たちは一緒に戦うんだから、少しでもお互いのことを知っていた方がいいだろう?」

「だからって、ベッドまで一緒にするのは……」

「私は構いません。そちらの方が住居スペースの効率がいいですし」

 そう難なく答えるハツネさんにガクリと肩を下ろす。異性として見られていないことに梶野さんが苦笑いしていると、ピピッ、とアラームが鳴った。

「あら、もうこんな時間。二人とも、学校に行かないと遅刻するわよ?」

「あ……はい、そうですね。それじゃ行ってきます」

 そう言って僕たちは互いにカバンを手に取り寮を出ようとすると……

「――勇。ん」

「ん? えっとハツネさん、その手は?」

「何を言ってるんですか。手を繋ぎましょう」

「はえぇ!? な、なんでそんなことを……」

「忘れたのですか。共に戦う私たちはもはや一心同体。ならば常に側にいた方が効率がいいじゃないですか」

「それはそう……いや、そうなのか?」

 だが、それでもハツネさんは手を出してくる。

「勇――ん」

「……」

 いつの間にかGV隊員の黄色い声援に囲まれながら冷や汗を流した僕は……意を決して、彼女の手を握ったのだった。


 ……


「あ、氷室さ……え!?」

「う、嘘……氷室さんが、手繋いでる!?」

「あ、相手は……誰?」

 今日の御影学園通学路は、阿鼻叫喚だった。

 昨日転校してきた話題の転校生……その子が、いきなり異性と手を繋いで一緒に登校しているのだ。仕方ない。

 しかもそれが、誰も知らない生徒となれば猶のこと。

「おい、あれ浅谷じゃね?」

「誰?」

「俺一年の時同じクラスだった。成績はそこそこだけど、運動神経悪過ぎて友達いないやつ」

「それって陰キャじゃね? なんでそんな奴と氷室さんが……」

 言葉の矢が、ちくちくと僕の背中に刺さる。

 これまで人に注目されたことなんてない僕がこんなことになるなんて、誰が想像しただろうか。

「あ、あの、ハツネさん……やっぱり、こういうのは止めた方が……」

「構いません。むしろ変な手合いに話しかけられることもなくてラッキーです」

「あ、そう……」

 やっぱり美少女も大変なんだな……。

 そんなことを思いつつ、僕らは皆の視線に刺されまくりながら教室まで歩くのだった。

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