第3話 Bパート~地雷系女子の撮った写真~

「……はぁ」

 昼休み、誰もいない学園裏の休憩所で僕は一人息を吐く。

 ハツネさんは身体のメンテナンスのためGVに戻った。故に今日初めて一人での時間を過ごすのだった。

 ……静かだ。

 一人の時間がこんなに静かだなんて。まるで昨日一日の出来事が嘘のようだ。

 でも、嘘じゃない。これから僕は、ハツネさんと一緒に地球のために戦わなくちゃならないのだ。

 僕は正義の味方に憧れていた。だからこんな日々をずっと待ち望んでいた、とずっと思っていた。

 けれど、ふと昨日の闘いが頭の中に過る。あの化け物のような怪物相手に二回も勝てたなんて信じられない。もし一歩間違えれば、僕は今頃……そう考えるだけで、僕の身体は震えが止まらなかった。

 今後もあんな闘いを続けなければならない。それがこの地球のために必要なことだとわかっている。だが、それでも僕は……身体の芯から広がる冷たい恐怖を感じずにいられなかった。

「あ、いたぞ」

 そんな時……僕の前に突如、影が出来る。

「……おい、お前」

「え……あ……」

 目の前にいたのは、学園の中のカースト上位集団。

 普段ニコやかな彼らが僕に送っていたのは……無感情な冷たい視線だった。

「お前さ……氷室さんと付き合ってるの?」

「え、あ……」

「も~! そんな威圧的に聞いたって駄目っしょ!」

 そう言って集団の中の男が一人僕の隣に座りこんでくる。

「あれさ、ただの友人っしょ? 君と知り合いだから、守ってあげただけっしょ? そうでしょ?」

 ニコニコしながら問いかけ、しかし目の奥は笑っていない男の視線に、僕は思わずひるんでしまう。

「はい決定~♪ それじゃオレが一番乗りね~♪」

「は? 何抜け駆けしてんの? こういうのは俺が先だろ」

「まぁまぁ落ち着けよ、こういうのは皆で仲良く分け合おうぜ」

 勝手に話を進ませる彼ら。だがその会話を聞いて、今朝の言葉が頭によぎる。

『むしろ変な手合いに話しかけられることもなくてラッキーです』

「……」

 ハツネさんが言っていたのは、こういうことだろうか。

 こんなことが嫌だから、朝あんな行動に出たのだろうか。

 そう思った瞬間……僕はいつの間にか、口を開いていた。

「あ、あの……!」

「……なに? 今オレら忙しいんだけど」

「そ、そういうの、やめた方がいいですよ……氷室さん、苦手って言ってましたし……」

「……」

 瞬間、男たちが全員無言になった。

「……周りに誰かいる?」

「いねぇ。さっき人払いもしたし」

「ならさ、遠慮する必要もないよね♪」

 ブゥンッ!

「ぐは……っ!?」

 瞬間、隣に座ってた男から裏拳が飛んできた。

「おいおい、顔はやめろよ……ちゃんと、腹を狙わねぇとッ!」

 ドガァッ!

「ぐあ……っ!」

 次に飛んできた蹴りに、僕は地面に転がってしまった。

 瞬間、服を着ている場所めがけて男たちの蹴りが始まった。

「おらおらおらッ! 調子に乗ってんじゃねぇぞ陰キャが!」

「テメェみたいな底辺が付き合っていい奴じゃねぇんだよ、バーカ!」

「いい加減分不相応だってことに気付けよ、この雑魚がッ!」

 あぁ、また始まったのか。

 中学時代も時々こんな風にイジめられてた。

 こういうの、最後はお金を持ってかれるんだよな。毎回お金をせびられるから、親は僕にお小遣いをあげなくなったっけ。

 今日はどのくらい持ってたっけ。確かGVに来た時にお昼ご飯代に少し貰ってたような……

「ッ!」

 そうだ。このままじゃダメだ。

 このままだと、ハツネさんはこの男に付きまとわれることになる。

 そんなことになったら……ハツネさんは、絶対に辛い思いをする。

「……そんなの、駄目だ……ッ!」

 僕は歯を食いしばる。

 堪えないと。そうじゃないと次はハツネさんに迷惑が掛かる。

 それだけは、避けないと……ッ!

「……気に入らねぇな、その視線」

 しばらくすると集団の男が僕を見下してきた。

「底辺陰キャの癖に、何俺らに逆らおうとしてんだよ。テメェらは大人しく俺らに全部献上すればいいんだよ……」

 そして男は、一際大きく足を上げる。

「そんなこともわかんねぇのか、この脳タリンがッ!」

「ッ!」

 迫りくる足に、僕は思わず目を瞑る……

 パシャッ。

「はい証拠ゲット~♪」

「……え?」

 瞬間、その場にいる全員の視線が音のした方向に向く。

 そこにいたのはスマホを構え、髪を二つ結びにした……所謂、地雷系ファッションをした女の子だった。

「学園カースト上位のあんたらがぁ、暴力事件を起こしてる動画~……こんなの出回ったらぁ、ちょ~炎上しちゃうよね~マジ草♪」

「……ちっ」

 そう舌打ちを打つと、男たちは何も言わずその場を去っていく。

 後に残されたのは、僕の目の前にいる女の子だった。

「大丈夫? 大変だったね~勇君」

「ど、どうも……って何で僕の名前を?」

「そりゃ知ってるでしょう。君、もう学園の有名人だよ。カリスマ転校生をゲットした、王子様だってね」

「王子って……」

 ここでもその呼ばれ方をするのか……そんなことを思ってると、彼女が僕の座っていた椅子に座った。

「君も座りなよ。飯、食えないっしょ?」

 そう言われて僕は椅子へ座りなおす。それと同時に彼女はおにぎりを差し出してきた。

「はい、これあたしのおごり♪ 一緒に食べよ♪」

 そう言って、彼女はおにぎりを食べ始めた。お米を口に含んで咀嚼するたびに漏れる笑顔に、彼女がこれが好物だということがわかった。

「い、いただきます……あ、美味しい」

「でしょでしょ~♪ ウチの手作りなんだ、それ♪ マジ味にこだわってるから、もっと感想よろしくね♪」

 そう言いながら美味しそうに食べる彼女につられ、僕も一緒に食べる。

 その時間がゆっくりと流れ、何故か心地よかった。

「でさでさ~、どうやってあの子オトしたの?」

「ぶぅっ!」

 そしてその時間は割とすぐ終わった。

「いやさ~あーしそういう話ちょ~好きなんだよね~ねぇねぇ聞かせてよ、誰にも言わないからさ、ねぇねぇ♪」

 伝えたらすぐ誰かに言ってしまいそうな軽口で言う彼女に若干押されてしまう僕。

 けれど、『たまたま一人でロボット遊びをしていたら金属生命体の美少女がやってきて、そのまま彼女と合体して敵と戦ったから』なんて伝えても信じてもらえるわけないし……そんなことを考えているとチャイムが鳴り響く。昼休みが終わったのだ。

「あ~残念、もう終わりかぁ……それじゃ、また話聞かせてね、バイバイ♪」

「あ、あの……! な、名前、まだ聞いてなかったんだけど……」

「あ、ゴメンゴメン、忘れてた♪」

 そう言って、彼女はふわっ、と一回転する。

「あたし、秋山莉奈! 莉奈って呼んでね。よろしく、王子♪」

 さらっと王子とまた呼ばれた僕を後目に、彼女はその場から去っていく。

 莉奈さん。よくわからないけど、いい人だな……後に起こる出来事を知らずに、僕はそんなことを呟いていた。

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