第8話

長櫃の中に隠れる少女とビビ、そしてラン。少し不安そうな眼でいるみどり・・・この日十歳になるのだが、やはりまだ心が幼い・・・だが、彼女はしっかりとビビを抱き寄せている。

 「ビビちゃん・・・」

 ニャー

 「しっ・・・」

 人の気配がして、ビビをギュっとみどりは強く抱き締めた。

 龍作はみどりに、ランはみどりの横に伏せ、その時をじっと待っているふうに見える。ラン口には短剣があり、開いたらすぐに口にくわえたまま、飛び出して行く準備は整っといた。

 静かな時間が過ぎた。このまま、何も起こらないようにも思えた。

 だが、そうはいかなかった。

 けっして忘れてはいけない。奴らは、そこに、いるのだ。

 人の動き回る気配がして、ざわざわという男たちの声とともに、彼らが動き始めている。

「くぅぅ・・・」

 ビビが小さく反応する。

 みどりが、そのビビをギュっと抱き締めた。

 「おい、開けろ!」

 誰かが命令した。

 そして、長櫃の蓋は開けられた。この時には、ランは口に短剣を咥えていた。

 その瞬間。

 長櫃の中を覗き込んだ男の首を、ランは短剣で切り裂いた。

「ギャ・・・」

 男の悲鳴が御社の中で響き渡った。その悲鳴は、この森閑とした闇に響き渡った。もちろん、御社の外へも聞こえた筈である。

 その瞬間、御社の扉が開き、九鬼龍作が飛び込んで来た。

 龍作の手には、闘う武器らしいものは何も持っていない。御社の中にいる大猿は、小さな御社の天井を突き破ってしまいそうな大きさだった。

「やはり、大猿ではなかったな。お前は何者だ?」

この時、一人の男が横から鎌で、龍作に襲い掛かった。龍作は身体を引き、難なくかわした。

「さあ、みんな長櫃の中から出るんだ」

みどりは素早く長櫃から出て、龍作の後ろに隠れた。手には祖父から預かった木刀を持ち、構えている。

「みどりさん、外に出るんだ。みんなも・・・だ」

「はい」

「さあ、ビビも外に出ておいで。刀根くん、後は任せたよ。私は、今から、ここにいる連中をやっつけるから」

「はい、任して下さい」

刀根尚子警部補は、武器は持っていないが、やる気は十分の気構えだ。

ランは短剣を咥えたまま、すでに戦闘モードになっていた。ビビはというと、彼らの背後にまわり、龍作の指示を待っていた。みどりは龍作の指示通り、御社の外に出た。

外はすっかり漆黒の闇になっていた。どこにも明かりはなかった。これも、龍作の指示だった。

「当り前だ。大猿なものか!見ての通り人間様だ。まあ、俺のことなど、どうでもいい。そんなことより、俺の邪魔をするな。おい、お前!何者だ?」

ビッグ・オランと呼ばれる大男は、手で自分の首を切る仕種をした。

「やってしまえ」

という意味なのだろう。短刀を持つ男が、龍作の首に切りつけようとした。

次の習慣、ランがその男に向かって、飛んだ。

「ギャっ!」

鋭い悲鳴が上がった。男の喉からはげしい血吹雪が飛び散った。男たちの動きが一瞬止まった。

「こうなったら、みんな一斉に飛び掛かり、やってしまえ」

しかし、ことは、そう簡単なことではなかった。御社の中は狭く、自由に動き回ることが出来ない。

そこに気付いたビッグ・オランは、

 「みんな、外に出ろ!」

 と、叫んだ。

 「オー!」

 みんなが一斉に外に出た。出た・・・のは、いいが・・・外は暗闇である。

 「クソッ・・・」

 彼らの動きが止まっている。誰かが、

 「何だ・・・これは?」

御社の周りには千鳥がけの柵だらけである。隠れていた村民が刀根尚子警部補の指示で、御社の周りに千鳥掛けの柵を設置したのである。逃げ出すことが出来ない。

「ラン・・・」

龍作はこの機会を待っていた。

「おい、ビッグ・オラン。逃げられないぞ」

「うるさい、お前なんかに、捕まるものか」

男たちの悲鳴はあちこちから聞こえてくる。

「ギャッ!」

「助けてくれ!」

身軽なランは千鳥掛けの柵の上を駆け回り、短剣でビッグ・オランの仲間を切り付けている。

ところで、ビビは・・・というと、敵の隙を見て、顔に飛び掛かり、掻きむしり攻撃を咥えている。

「ギャギャ・・・」

この掻きむしりを受けた方は溜まらない。

この時、

「来ましたよ、九鬼龍作さん」

刀根尚子警部補が龍作に叫んだ。パトカーのサイレンの音が聞こえて来た。しかも、一台ではなく、何台も・・・である。闇の中に赤い明かりが点滅し、響き渡っている。

 御社の前は混乱し、今は、呻き声以外は聞こえない。

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