第5話

「よし、いい、いいね。大猿だか何だが知らないが、あの子を見れば、きっと驚くだろう。面白くなってきたぞ」

 龍作はこう言い、次の行動計画に移った。

 九鬼の指示で、

「村の人たちに集めて・・・」

といわれた武藤条太郎は、若いものや今家にいたもの、村民二十人ばかり集まってもらった。

「今から、指示通りのものを集めて、あるものを作ってもらいます」

九鬼は描いた図面を、集まったみんなに見せた。

「長さ二メートルくらい木の棒・・・そうですね、太さは大人の手首の太さがいいと思います。七メートルくらいの木の棒も何本も集めて下さい。そして、その先を尖らしてください」

という指示を、龍作は出した。

「何をするのですか?」

条太郎は怪訝に思った。だが、条太郎には思い当たるものがあった。

「まあ、見ていて下さい。今に分かります。みなさんも、よく見慣れていると思います。大猿と言っていますが、鬼が出るか化け物が出るか、楽しみです。奴らの驚く顔が目に見えますよ」

「鬼・・・・・・」

「はは・・・」

龍作は笑うしかなかった。今の所、相手が誰なのか、彼にも分からないのである。不安というより、興奮するような楽しみがあるのか、龍作は、

「フフッ!」

と、何度も笑っている。

秋祭りまでには、生贄を送り出す日までにはまだ日があった。

「ラン、おいで。ちょっと休もう。刀根警部補も休みましょう」

龍作は座るのにちょうどいい木の株があったので、座り、

「みどりちゃんも、こっちにおいで。すごいね・・・」

みどりはビビを抱き上げ、やって来た。武藤条太郎の大きな家の間を吹き抜ける風が爽やかで、気持ちいい。条太郎に、

「秋祭りの社の辺りを見てみたいのですが・・・」

と、龍作はいった。

「分かりました。案内致します。みどり・・・」

と、条太郎は応えた。

「うん」

みどりも案内を承諾した。

「こっちよ」

千曲川に注ぐ細かな川に沿い、森の奥に入って行くと、杉の木立の間を、車が通ったのだろう轍が続いている。やがて、一の鳥居が見えて来た。その奥に社が見えた。周りは杉の木立だ。ここにも、その杉の根元には伐採された枝が残っていた。

「これらは・・・」

「その内に、祭りまでにはみんな片付けると思います」

「いや、そのままに・・・」

と、なぜか・・・龍作は申し出た。

「どうするんですか?」

「すぐに分かります」

条太郎はこの男を睨んだが、何も言わず、

「この先に見える社が、そうです」

一の鳥居もそうだが、社殿も古びることなく残っていた。おそらく地区の人たちによって守られて来たような感じがする。

「みどりは、ここにいなさい」

条太郎は社の前で立ち止まり、龍作に社殿の中に入るように促した。

社殿の中はそれ程広くはなかった。というより、正面に大きくない神仏が端座していて、入って来るものをじっと正面を睨み付けていた。龍作には神仏が興味がないので、何という仏が分からなかったが、もの静かに端座していた。裏にまわったが、何もなかった。

龍作は条太郎を見つめ、ふっと吐息を吐いた。

みどりは黙ったままである。静寂が生きているっという印象が漂っていた。この社が、維新の改革期をどう生き、どう残ったかは分からない。ただ、

「残った、村民の誰もが、この社を守り抜いた、といった方がいいかもしれない・・・」

のは、間違いない。


武藤の家に戻ると、ビビとランの訓練は続けられていて、凄まじかった。ビビはそのような闘う猫ではなかったし訓練をしていなかったのだが、ビビにはビビの闘い方があったのだ。ランはそれなりの・・・つまり闘いの仕方を知っていた。しかし、それでも今度のように人を傷つける闘いははじめてであった。

 「ラン、いくわよ」

 刀根警部補はリンゴをランに向けて、投げ続けた。

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