第1章-8 負け知らずのボーボ

 名前の通り、ぼくはボスだから強い。

 どんな犬にだって、どんな動物にだって、負けたことがない。四角い画面の中の動物たちは、ぼくが吠えれば、いつだってみんな逃げていなくなるんだ。


 ぼくがカオルさんに飼われてすぐ、テレビ画面の動物たちに立ち向かって行くように訓練したのは、カオルさんのお母さんだ。画面に動物が出てくるたびに、

「ボスちゃん、あ~っ!」

と大きな声で言って、動物を指差す。

 ぼくは、どこにいてもテレビに向かってダッシュして、そこにいる動物たちに吠えまくり、飛びついて前足で追いかける。

 犬にも猫にも馬にも、ライオンにだって立ち向かい、画面の外に追い払った。負けたことは、一度もない。勢いあまって激突して、テレビの上に飾ってあった物が頭に落ちてきて、びっくりして逃げることはあるけど、画面の中の動物たちから逃げたことは、一度もないのだ。


 幼少期に、そんな教育を受けたものだから、いまだに、テレビに動物の映像が流れると「あ~っ!」なんて指示されなくても、飛びかかって行く。ぼくの動体視力はすごいのだ。

 でも、たまに犬の良さそうな顔をしている犬が出た時は、いきなり飛びついたりはしない。テレビの前まで行って、様子をみる。ちょこん、と足をそろえておすわりをして見る。一応、わきまえているのだ。

 朝の某情報番組のコーナー「きょうのわんこ」に出てくる犬たちは、いい仕事をしている犬が多いから、時々首をかしげたりしながら、真剣に見る。

 そんな時、カオルさんは、

「ボーちゃん、いい子ねぇ。テレビ、面白い?」とか言って、頭をなでてくれる。


 だけど、どんなに落ち着いて見ていても、相手がちょっとでも素早い動きを見せたり、走り出したりしたら座ってなんかいられない。速攻、飛びかかって追いかける。

すると、みんな必ず画面の外に逃げていくんだ。

 ぼくは、勝ち誇った顔で自分のマットに戻って、フンッと一回鼻を鳴らしてポーズを取ってすわる。


 ぼくは、強いんだ。

 白くてちっちゃいけど、負けたこと、ないんだから。


 ボーボの勘違いは、永遠に続いていく・・・。

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