第1章-5 外犬になる
ショウタとの土間での生活が始まって半年後、家の建て替えも終わり、古い家は壊されることになった。新しい家を覗いてみると、木のいいにおいがする。この家の静かな部屋でゆっくり暮らせるんだ!
ところが、一緒に住むおばあちゃんが言った。
「新しい家に、おしっこされたり爪の傷がついたらイヤだな」
・・・!
そして、縁側の横に柵が作られた。ぼくとショウタは、早速、その柵の中に入れられた。
(えぇっ!外で暮らすの?)
(ヤダ、ヤダ、ヤダ、いやだぁ!)
ショウタは、柵を壊さんばかりにピョンピョンと柵越えを試みた。ぼくは柵の下のレンガの床をひたすら掘って掘って掘りまくろうとした。でも、ショウタはあごを何度もぶつけ、ぼくは爪の音がチャカチャカいうだけで、穴なんかこれっぽっちも掘れなかった。
ぼくはマルチーズで、ショウタはトイプードルだ。白くて小さい愛玩犬だ。それなのに外で暮らすのか?聞いたことないよ!虫はブンブン飛んでるし、夜は暗いし、車の音や何かも分からない音や匂いでいっぱいだった。
こんなところで、ぼくはとてもじゃないけど眠ることはできなかった。
毎晩、ぼくとショウタは、哀しい声で吠え続けた。
アオ~ン・・・ アオ~ン・・・
数日後、「うるせえ犬だ」と隣のじいさんから苦情が来た。
(よし、これで夜も部屋に入れてもらえる!)
ホッとしたのも束の間、その日のうちに大工さんが来て、今度は駐車場の奥に大きな犬小屋を作ってしまった。
今度は屋根もある。ガラスのサッシ付きで外も見える。でも、ここはやっぱり外だ。室内じゃない。
ぼくは、ねばった。
アオン、アオーン・・・ アオ~ン・・・
ぼくの哀しげな遠吠えは続いた。半分あきらめていたショウタも、ぼくのねばりにつられて、時々、競り合うように吠えた。
ワオ~ン!オン!ワンッワンッ!
ショウタは、ちょっと音痴で、遠吠えするのが下手だった。
しばらくすると、カオルさんとヒロさんがついに助け舟を出してくれた。
「近所迷惑だし、やっぱりトイプードルとマルチーズって室内犬じゃない?」
こうして、階段の上に柵を張り『下には勝手に下りないこと』という約束のもと、ぼくとショウタは、カオルさんたちの住む2階で暮らすことが許された。
やっと、普通の室内犬に戻ることができた。
久しぶりのカオルさんたちの寝息が聞こえる夜。
ぼくとショウタは、寝室に置かれた新しいクッションは無視して、ショウタはヒロさんの布団の中で、ぼくはカオルさんの布団のすその上で、何日かぶりにぐっすりと眠った。
ぼくは、トンビの鳴き声が響く海岸で、砂浜を思い切り走り回る夢を見た。きっとショウタも、ふかふかのぬいぐるみに囲まれて好きなだけ甘えてる幸せな夢を見たに違いない。
ボーボの遠吠えの勝利。
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