第1章-4 教育的指導か勢力争いか

 ぼくはまだ1歳。ショウタだって年上とは言え、まだまだ2歳のやんちゃ盛りだ。ショウタは先住犬だし、一応ぼくより年上だから、ぼくよりかは偉いと思っているらしい。白いところも体の大きさもほとんど一緒だから、ぼくからするとたいして変わらない。それなのに、先輩風を吹きたがる。たかが一歳違い、偉そうにされてたまるもんか。


 そんなわけで、ぼくは常にショウタの上の家族順位を狙い、ショウタはぼくより上だとアピールする。だから、当然のことながらぶつかり合うことになる。おまけにオス同士、結構なケンカに発展することも日常茶飯事だ。

 ショウタは「教育的指導」と思ってかかってくるが、ぼくにとっては「勢力争い」なのだ。負けるわけにはいかないのだ。


 ショウタは、ぬいぐるみやボール、とにかくおもちゃが大好きだ。ぬいぐるみなんかは、あっという間に綿と切れ端に分解してしまう。ビニールのボールだって、鋭い犬歯で穴を開けてすぐにペシャンコだ。穴の開かない硬いテニスボールは、のどがカラカラになるまでかじっている。よだれでびしょびしょに湿ったテニスボール。

(うう、きたない・・・。)


 ぼくが好きなものは、靴下、スリッパ、使いたてのタオルや枕。とにかく、人の匂いがするものなら何でもいい。ぬいぐるみなんて、味気ない。人の匂いのしないものは、食べ物以外は興味なしだ。


 だけど、ショウタが一生懸命何かをかじっているのを見ると、ついつい気になって覗き込みたくなる。そして、匂いを確かめつつ近寄っていくと、


 ガルルルルル・・・・。


 警戒心をあらわにしたショウタが唸る。そして、唸り声が途切れた瞬間に、


ガウッ!


 ショウタが歯を剥く。

 ショウタの教育的指導、ステージ・1だ。


(ちょっと、覗いただけなのに、なんだよ。そんなぬいぐるみ、欲しくないよ。)

 なのに、ショウタは立ち上がって、また唸る。

 ぼくだってやんちゃ盛りだ、売られたケンカは当然買う。ショウタと同じく、ガルル・・・と唸り返す。と同時に、ショウタは後ろ足二本で立ち上がり、高いところからぼくを威嚇し始める。

 ショウタの教育的指導、ステージ・2だ。


 でも、ぼくはそんなショウタにひるむことなく、喉元を狙って下から攻めていく。


 グワワワワワッ!

 ドスン!ガウ、ガウ!ドタタタ!


「コラッ!」

 騒ぎを聞きつけたカオルさんが、タオルを振り回してぼくたちを引き離そうとするけれど、一度失った理性は、ちょっとやそっとじゃ取り戻せない。


 ガウガウッ!ドタン!

 ガルルッ!


 ガブリ。


「・・・痛ッタァ~・・・」

(あ、マズい。間違えてカオルさんの手、噛んじゃったよ・・・)

「・・・噛んだなぁ!」


 ペンッ!ペンッ!

 逃げる間もなく、ぼくとショウタは、お尻をたたかれる。


 クウン・・・

(ごめんなさい!ショウタと間違えちゃったんだよ・・・)

 すぐに反省してしゅんとなってるぼくの背後から、スキあり!とばかりにショウタがすかさず、はがい絞めをかけてくる。


 ガウッ!ガウッ!


 ぼくの背中に乗りかかったまま、耳元でショウタが吠える。

 ショウタの教育的指導、ファイナル・ステージだ。

 

 低く唸ったり吠えたりしながら、なんとか背中のショウタを振り払うと、今度はぼくが壁際にショウタを追い詰め、ショウタの耳元で、分かったか!と言わんばかりにしつこくしつこく吠えちぎる。


 ギャン!ギャン!

 ガウッ!ガウッ!ガウッ!


「いい加減にしなさい!」

 カオルさんが二度目の雷を落とすと、力ずくでぼくたちを引き離し、やっとぼくとショウタの騒ぎがおさまる。

 これがいつものパターン。しかも、このバトルを一日に何度となく繰り返す。そしていつもカオルさんの雷(仲裁)で終わりになるから、結局、ぼくもショウタも自分が勝って終わったと思い、いつまでたっても決定的な主従関係ができないのだ。


 こうして、明日もまた、ショウタの教育的指導とぼくの攻防戦は続く・・・。

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