第1章-2 トンビに狙われる

 ぼくの家は海まで5分くらいの所だったから、散歩は海に行くことが多かった。最初は波の音にびっくりしたけど、広い砂浜を思い切り走れるのは、本当に気持ちよかった。

 夏は人がたくさんいるけど、秋になると海にはほとんど人がいない。釣りをしている人や散歩をしている人や犬が少しいるくらいだ。

 ぼくはカオルさんの足元をくるくるとまとわりついているだけで、脱走しようとなんて思ったことがなかったから、時々、海でリードを外して走り回らせてもらった。


 ピー、ヒョロヒョロヒョロ・・・


 空の上の方には、本当にトンビがくるりと輪を描きながら何羽も飛んでいた。海でのんきにお弁当を広げていたりすると、おにぎりやコロッケを一瞬でさらっていくから気を付けないと、とカオルさんたちが話していたのを聞いたことがあった。


 ピー、ヒョロヒョロヒョロ・・・

 ピーヒョロヒョロ・・・


 なんだかさっきより、声が大きく聞こえた気がした。カオルさんもちょっと不安そうに空を見上げていた。さっきより低いところを飛んでいて、トンビの数も増えたみたいだった。

「ボー、おいで!」

 ぼくは名前を呼ばれて、カオルさんの方に走り出した。


 ザワッ。

 ぼくの上を黒い影が追い越していった。カオルさんが駆け寄って来て、ぼくを抱き上げてくれた。

「あっぶなーい。ボー、今トンビに確実に狙われてたよ」


 ぼくはカオルさんの腕にくるまったまま、家に帰った。


 広い砂浜で、イキがよさそうに動き回る真っ白い物体は、トンビの格好の獲物に見えたに違いない。残念ながら、それ以来海でリードを外してもらえることはなくなってしまったけれど、命を狙われるよりは全然いい。

 それにしても、高いところで小さく見えるトンビだけど、近くまで降りてくると思った以上に大きくて、びっくりだった。

 気をつけなくちゃ。

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