ボーボの遠吠え
樵丘 夜音
第1章-1 はじめまして
我輩は、犬である。
名前はもうある。2つある。
本名は『マリン・オブ・シムラ・ハヤマソウ・ジェイ・ピー』、血統書に記された本名だ。この上なくかっこよくて長すぎる名前だ。
リボンなんか着けられてるけど、マルチーズのオスである。
ぼくは、海の近くの町の高台の家で、4兄弟の長男として生まれた。
生後3ヶ月の時、動物病院の掲示板の『マルチーズ・譲ります』という貼り紙を見たカオルさんがぼくたちを見に来て、ぼくがカオルさんのかばんをずっとかじっていたら「うちに来る?」と頭をなでられて、ぼくはカオルさんの家に引き取られることが決まった。
ぼくの作戦、大成功だ。
カオルさんは、真っ白で小さくて頼りない顔をしていたぼくを見て、強そうな名前にしなくちゃと、ぼくを『ボス』と名付けた。(名前を考えていた時に、横に缶コーヒーのBOSSがあったから、という説もある。)
血統書の名前くらい長いなら「略して、マリンちゃん」と言われても納得できるけど、普段、ぼくはたった二文字の名前なのに、略されたり、変なあだ名を付けられたりしている。『ボス』を略したら、『ボ』か『ス』だ。
でも、カオルさんは、いつの頃からか、ぼくのことを『ボーボ』と呼ぶようになった。略すどころか長くなってるじゃないか。でも、反論するすべもないし、すぐに慣れてしまった。『ボーボ』が定着してからまもなく、多分、ぼくは叱られる回数が多かったからだろう、ぼくの呼び名は、さらに縮められて『ボー!』になった。
ぼくは、極めて従順で穏やかな性格だ。ただ、究極の寂しがりなので、誰かがいないとすぐに体調を崩してしまう。
寂しいと、ずっとずっとあきらめ悪く吠え続けてしまう。留守番をさせられると、誰かが帰ってくるまで遠吠えし続けるので、ご近所には「カオルさんちは、今お出かけね」とバレバレなんだそうだ。
好物は、リンゴとキャベツだった。シャクシャクと音を立てて、みずみずしいキャベツやリンゴを食べるのが大好きだった。
哀しいかな、過去形なのは、歯槽膿漏になって歯が数本しかなくなってしまい、今はもう、硬いものは噛めなくなってしまったからだ。
ぼくは今年、13歳になった。人間の歳に換算したら、とっくにおじいさんの域に達している。
日なたでウトウトするのが、最高の幸せだ。カオルさんと出会ってからの、たくさんのことを思い返しながら。
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