最終話.幸せの音

 建国記念日が終わっても、私の日常は変わらない。

 いつも通りに音楽団の練習場に向かうと、ジュルアが涙を目に浮かべてジッと私を見つめていた。


「私も味方だから」

 

 そう言っていきなり強く抱きしめられる。


「ど、どうしたの?」

「アイラにあんな辛い過去があったなんて知らなかった……」


 ジュルアはあの時に力になれなかったと落ち込んだ様子で私に話す。


「ありがとね。ジュルアが味方で心強いよ」

「本当?」

「うん! とっても嬉しい!」

「良かった……」


 何故かさっきよりも多くの涙を流すジュルアの背中を私は宥めるように撫でる。

 ずっと親友だと何度も口にするジュルアといると、心の内から温かいものが溢れた。


「一緒に演奏しない?」

「もちろん!」


 涙を拭って、ジュルアはヴァイオリンを構える。

 私も鍵盤に手を乗せて、メロディーを頭に思い浮かべた。


「いくよ」

「うん!」


 呼吸を合わせて最初の一音目が共鳴する。

 透き通るように綺麗な和音が部屋に響く。

 

(今日のジュルアはすごく調子が良いね)


 ヴァイオリンの生き生きとした音を聞いて、私は負けてられないと感じる。

 飛び跳ねるようなジュルアの演奏にピアノを調和された。

 

「アイラ! すごく調子いいじゃない!」


 ジュルアの目線からそんなメッセージが伝わってくる。


「ジュルアこそ最高の演奏よ!」


 私も気持ちを伝えようと、ジュルアに目を向けた。


(もっと良い演奏を)


 お互いに心の中では同じ感情が沸々と湧き上がる。

 一番の音色が出せるよう、強弱とタイミングに意識を向けた。

 頭の中で鮮明にイメージされた音が狂いなく空間に響く。


(ここはもっと繊細に)


 時にはジュルアの演奏に合わせて、時にはジュルアの演奏を引っ張る。

 完全に演奏の世界観へ入り込んだ私達は最後まで完璧な形で弾き切った。


「すごく良かった」


 余韻の音と一緒にベン様の拍手が響く。


「ありがとうございます……」


 ベン様はよく頑張っていると何度も口にして、私の頭を撫でる。

 暖かくて優しい手の感触を感じて、私の頬は緩んでしまう。


「お幸せに」


 そそくさと部屋を出ていくジュルアのせいで余計に恥ずかしくなる。

 

「ベン様……」


 二人きりだと意識すると、心臓の鼓動がとてもうるさく感じた。

 だけど、ベン様に抱き寄せられると甘えたい気持ちが爆発してしまう。


「いきなり甘えてきたな」

「嫌ですか?」

「嫌ではない……」


 照れ臭そうに頭を掻くベン様に私は擦り寄る。

 私と同じようにベン様の心臓は鼓動は激しくなっていた。


「すごく心地いいです」

「それは良かった」


 ベン様に抱きしめられている幸せを噛み締める。


「今は幸せか?」

「もちろんです!」


 実家に虐げられてきたけど、結婚をしたらベン様や沢山の人と出会った。

 大好きなベン様に溺愛されて、大好きなピアノを弾く毎日はとても充実感に溢れている。


「これからも一緒にいてくれますか?」

「あぁ。もちろんだ」


♢♢♢


 最終話まで読んでいただきありがとうございます!

 これにて一旦完結とさせて頂きます。

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