75.断罪

「あなた、今何をしようとしたのかしら?」

「出来損ないの妹を教育しようとしただけだわ」


 ルージュ姉様は不貞腐れた態度でリーナ様を見つめる。

 リーナ様は動じた表情を見せずに淡々と口を開く。


「それを世間一般では暴力と呼ぶわ」

 

 パーティーで盛り上がっていた王城の熱気が冷める。

 

「王城で暴力沙汰を起こす。これだけでも十分重罪よ」


 リーナ様の一言で厳かな空気が王城を支配した。

 すっかり萎縮してしまったルージュ姉様を見て、呆れてしまう。


「リーナ王女」

「何かしら。リンドヴルム公爵」

「サートン伯爵家にまだまだ余罪があります」


 重たい空気の中でベン様の声はよく響く。


「娘への虐待と多額の借金の横領。探せばもっと多くの罪が明るみになるはずです」


 私の受けてきた理不尽の数々を言葉にする度に周りから同情の目線を向けられる。


「分かりました」


 リーナ様は淡々とサートン家の重ねてきた悪事を裁く。

 爵位の剥奪と投獄を命じられたサートン家の三人に、絶望感溢れる表情が浮かんだ。


「全てデタラメだ!」

「そうよ! 罪人になるなんて考えられないわ!」


 三人は何度も弁明をするが、誰も耳を貸さずに無意味に終わってしまう。


「全てあの下賤娘が悪いのよ! みんな悪女に騙されているわ!」


 ルージュ姉様の叫びが王城に虚しく響く。


「私はリストン公爵様の婚約者なのよ! 私たちに楯突いてタダで済むと思ったら大間違いよ!」


 ルージュ姉様は周りを脅すように叫ぶ。 

 実際に名を出されたリストン公爵も関わっていないし、知らないと言って首を横に振った。

 

「何よ! 大切な婚約者のことを守れない訳!?」

「俺は君のことを婚約者だと一度も思ったことはない」

「ふざけるんじゃないわ! あの時の熱く愛していると言ったことを忘れたわけ!?」

「君の勘違いではないのか?」


 どんどん墓穴を掘って落ちぶれていく様子に思わず目を瞑ってしまいそうになる。


「王城の気品が薄れますので、すぐにこの場から去りなさい」

「何よ! 貴族である私に触んないでちょうだい!」

「既に爵位を失っています。気にせず外へ放り出してください……」


 兵士に連れてかれないように必死に暴れるルージュ姉様を見て、失笑してしまう。


「アイラ。今までのあなたの無礼は許すから、この場を何とかしなさい!」


 今ルージュ姉様を見ても、怖いとは全く感じない。

 あれだけ酷いことをしてきても、謝罪の言葉は聞こえなかった。

 呆れるような態度に私は淡々とした気持ちのままルージュ様を見つめる。

 

「私はもう幸せです」


 もう過去は乗り越えた。

 そう自分に言い聞かせて、口を開く。


「だから、二度と私に関わらないでください」


 私はそう告げると、兵士は必死に抵抗するルージュ様を外へ連れて行った。

 お父様もお義母様も諦めたように放心状態のまま兵士に連れていかれる。

 そんな様子を私は黙って見ていた。

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