73.怒り
三人を見ると歯がガクガクと震えてしまう。
思いっきり顎に力を入れて、恐怖心を押さえつける。
私を蔑むような目線が体の芯に染み付いたトラウマを掘り起こす。
「変に出しゃばるからダメなのよ」
額に浮かぶ冷や汗を見たお義母様は嘲笑を浮かべる。
私は幸せになったらダメだと言われている様だった。
「アンタのピアノなんて誰にでも弾ける様なお粗末なものだったわ」
ルージュ姉様はピアノを弾く様なジェスチャーをする。
実家にいた頃も毎日の様に必死で弾いていた。
公爵邸に嫁いだ後も多くの人に支えられている。
そんな努力の結晶だった演奏をバカにされて酷くショックを受けてしまう。
「勝手に幸せそうな顔をして良いと言ったか?」
お父様は憎しみの篭った低い声を発する。
なんで怒ってるのか分からない。
だけど、身震いする様な威圧感に気圧されてしまう。
「どうして公爵家から仕送りが届かない」
理不尽な怒りが私を突き刺す。
実家にいた頃は私に何もしてくれなかった。
そんな反論を口にしようとしても、喉につっかえてしまう。
「自分が公爵様のお気に入りと勘違いしている哀れな子だわ」
ルージュ姉様はゆっくりと私の方へ立ち寄る。
「化粧で綺麗になっただけで調子に乗っていて、見てるだけで恥ずかしいわ」
「アンタみたいなダメ女よりもルージュの方が公爵様とお似合いだわ」
手を振り上げるルージュ姉様を見ると、私は目を瞑ってしまう。
いつまでも痛みはやってこない。
代わりにルージュ姉様の悲鳴がバルコニーに響く。
「何するのよ!」
恐る恐る目を開く。
目の前でベン様がビンタを止めてくれていた。
「ふざけているのか?」
今までで見たことのない怒りの感情がベン様の目に映る。
私と繋いでいる手は強く震えていた。
「お前たちは知らないよな?」
ベン様は歯を強く噛み締めて声を出す。
「アイラがピアノをどれだけ一生懸命弾いていたのか」
実家に否定されてきたことをベン様に肯定される。
「幼い頃から我慢してきた痛みをお前らは受けたことがあるのか?」
ずっと心の奥底に残っていた傷が癒やされていく。
ベン様は私の気持ちを分かってくれる。
そして、全てを受け入れて大切にしてくれていた。
「アイラはお前達に縛られずに幸せになっていくんだ」
強い決意の篭った声が響く。
ベン様の背中はとても頼り強い。
「だから、お前達はアイラと関わるな」
そう言ってベン様は私の手を握りしめる。
実家の三人に目を向けず、王城の広間へ歩き出す。
「すまないな。いきなり怒鳴ってしまって」
「ベン様が私を守るためにした事ですから」
私はとびっきりの笑顔でベン様を見つめる。
「よく頑張った」
ベン様のとても優しい声が耳を撫でた。
「とても怖かっただろう」
「でも、ベン様がいたから平気です!」
「そうか。アイラは強いな」
安心した様に息を吐くベン様を見て、私は大切にされている実感が湧く。
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