66.ツンデレな親友
公爵邸を出るタイミングでベン様に強く抱きしめられたからか、元気に満ち溢れている。
幸せな気分のまま音楽団の練習に取り組む。
「良い感じ!」
私のピアノはいつにも増して陽気な音を響かせる。
飛び跳ねるような勢いで指は鍵盤を駆け抜けていく。
とても調子の良い音色を奏でていると、つい集中しすぎてしまう。
「もうお昼だ……」
空っぽのお腹は栄養を欲している。
至福の時間を過ごそうと持ってきたお弁当箱を開く。
「美味しい!」
私は頬を手で押さえて、料理を楽しむ。
あっという間に食べ終えて、満足したお腹のまま練習に戻ろうとする。
「あっ……」
食堂からピアノのある場所へ向かう途中で乱れたヴァイオリンの音が響く。
何があったのか心配になって音の鳴る部屋を覗くと、ジュルアが表情をこわばらせてヴァイオリンを弾いていた。
「大丈夫かな……」
ジュルアの周りは声をかけ辛い雰囲気が漂っている。
私はどうすれば良いのか分からずに、苦しそうなジュルアの音色を響かせる様子を見ているだけしか出来なかった。
「アイラ……見てたのね」
唇をぎゅっと噛み締めて、明らかに落ち込んだ様子を見せる。
「うん……」
「情けない様子を見せちゃったわね……」
普段じゃ考えられない程に落ち込んだ親友を見ていると、心の中で不安と心配が降り積もった。
「話聴こっか?」
「お願い……」
真剣な表情を浮かべて、ジュルアはゆっくりと息を吐く。
「実は……」
神妙な雰囲気を出しながら昨日は幼馴染と話そうとすると、上手く顔を合わせる事すら出来ずに逃げてしまったらしい。
「どうすれば良いんだろう」
ジュルアは求婚された事をきっかけに幼馴染を意識するようになった。
だけど、一度恋愛的に見てしまうと照れ臭くて、つい素っ気ない態度を取ってしまうことに悩んでいる。
「一度好きって言ってみたら?」
「無理よ! 今更どんな顔して良いのか分からないわ!」
そう言ってジュルアは頬を真っ赤に染めた。
「カッコ良すぎて、目を合わせるだけでもダメだわ……」
普段の冷静で落ち着いているジュルアの面影は全く見えない。
「恋って難しいわね」
そんな乙女な言葉を口にする親友の力になりたいと思う。
「この調子だと可愛げのある女の人に取られてしまうわ……」
不安を表情に出してジュルアはため息を吐く。
「ジュルアはその人のことがすごく好きなんだね」
「もちろんよ! あんなに私の事を大切にしてくれる人はいないわ!」
「大丈夫。ジュルアの気持ちをきっと受け入れてくれるよ」
私はジュルアの手を握って、成功しますようにと念を送る。
「ありがと……頑張ってみるわ」
そう言ってジュルアは拳を強く握りしめた。
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