67.建国記念日に向けて

 キリの良い所で練習を中断して、休憩に移る。

 丁度ジュルアも休憩をしていたタイミングで、私は隣に腰をかけた。


「ありがとね。正式に婚約が決まったわ」

「そうなの!? おめでとう!」


 頬を緩ませて笑顔を浮かべるジュルアを見て、私は拍手をする。

 ジュルアの口からは甘い惚気話が沢山出てきた。


「それでね! 彼がこの指輪をプレゼントしたの!」


 止まらない惚気話を聞いていると、私まで幸せになってくる。

 ジュルアの話を聞いていると羨ましくなって、後でベン様に甘えようと思う。


「それでね! 建国記念パレードの演奏を聴いてもらうの!」

「建国記念パレード?」


 聞きなれない言葉に私は首を傾げる。

 

「例年ウチの音楽団は建国記念日に演奏を披露するのよ」


 もうじきパレードに向けての練習が始まるらしい。

 この国で一番のお祭りに期待感が湧き上がる。

 

「どんあお祭りなの!?」


 私は目を輝かせてジュルアに聞くと、とても楽しそうな話ばかりだった。

 たくさんの露店が出回って、中には有名なお菓子屋さんも出店をやるらしい。


「毎年すごい盛り上がりなのよ!」

「楽しみだね!」

「ええ!」

 

 そんな話をしていると思ったよりも長く休憩をしてしまっていた。


「そろそろ練習に戻るね」

「そうね。頑張りましょう!」

「うん!」


 ジュルアが言うには一番沢山の人が演奏を聞きに足を運ぶらしい。

 大勢の観客を思い浮かべると緊張で手を握る力が強くなってしまう。

 それでも一度ピアノを弾き始めると、すぐに不安は薄れる。


「もっとゆっくり……」


 意識はピアノにのめり込んで、とても心地の良い音色が響く。

 もっと良い音が出せるように試行錯誤をしていると、あっという間に時間は過ぎてしまう。


「もうこんな時間……」


 気づいたら夕暮れ時を迎えていて、あと少しで暗くなる時間だった。

 慌てて帰りの用意を済ませて、馬車に乗り込む。


「おかえりなさいませ」

「ただいまです」


 公爵邸に着いて、ナターシャさんに出迎えられる。

 そのまま自室に戻ると、疲れが一気に私を襲う。


「夕飯になさいますか?」

「はい! もうお腹がぺこぺこです」


 使い切った脳みそは栄養を欲している。

 食堂に向かうと、美味しそうな料理が並んでいた。


「今日も頑張ったようだな」

「ベン様もお仕事お疲れ様です」

「あぁ。これで大変な仕事は終わったよ」


 ベン様はそう言って大きくため息を吐く。

 よっぽど大変だったのか、その表情には疲れが見える。


「無理はしたらダメですよ」

「そうだな。またアイラとゆっくり過ごす時間を作らねば」

「はい! 楽しみにしてます!」


 私は目を輝かせると、ベン様は表情を緩めて笑みを浮かべた。

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