48.リゾート地への遠征

 肩にトントンと優しい感触が伝わった。


「着いたぞ」

「あっ……おはようございます」

「あぁ。おはよう」


 いつの間にか窓の外には窓の外には浜辺と海が広がっている。


「楽しみか?」

「もちろんです!」

「それはよかった」


 そう言って微笑むベン様の表情もどこか楽しげに見えた。

 ふと、扉が開くと爽やかな風が車内に吹き抜ける。

 とても心地良い感触が肌を撫でた。


「そろそろ降りようか」

「はい!」


 駅構内を歩く私の足取りはいつもの何倍も軽い。

 一歩タマルに足を踏み入れると、とても賑わっている様子が一気に伝わってきた。


「すごく賑やかですね」


 人気の観光地と呼ばれるだけあって、王都と遜色ない程に人通りが多い。

 街はたくさんの露店が並んでいて、どこも繁盛している。

 街の広場の中心では女の人が歌っていて、みんなそれを聞くために足を止めていた。


「ベン様はここに来たことはありましたっけ?」

「子供の頃に一度だけ訪れたが、あまり記憶はない」


 そう言うベン様は周りを興味深そうに見渡す。


「それなら、今回はいっぱい思い出を作りましょう!」

「そうだな」


 ベン様はにこやかに笑って、優しく手を引く。

 人混みの中で私は左右に首を振りながら進んでいく。

 そんな中でふとみんな手に持っているギザギザなお皿が気になって仕方がない。


「買ってみるか?」

「はい!」


 少し探すだけで直ぐに目的のお店は見つかる。

 

「味見するかしら?」


 そう言ってお店のおばあちゃんはパイナップルと言う果物を私たちに手渡す。


「酸っぱいけど美味しい……」

「これは美味いな」


 ベン様は驚いたような表情を浮かべる。

 王都で一度食べたものよりも、何倍も美味しいと呟く。


「本場で取れたパイナップルよ。新鮮で美味しいに決まってるわ」


 おばあちゃんは誇らしげに笑った。

 そんな様子を見ると、何かこのお店で買いたいと思ってしまう。


「おすすめのパインジュースはどうかしら?」

「それでお願いします!」


 そう言っておばあちゃんは街でみんなが持っていたギザギザのお皿を指差す。

 容器はパイナップルの皮を使っていて、見た目がオシャレで人気だと自慢される。


「お待たせ。特性パインジュースだわ」

「ありがとうございます!」


 ベン様は容器を手に取ると、少し表情が柔らかくなった気がした。


「確かにこれは気分が上がる」

「美味しそう……」


 ちょうど良い甘さのジュースを一口飲むだけでとても幸せな気分になれる。

 あっという間に飲み切って、空になった容器をおばあちゃんに手渡す。


「ご馳走様でした!」

「またお店を見かけたら寄ってちょうだい!」


 私はおばあちゃんが見えなくなるまで手を振る。

 ベン様の表情もとても幸せそうだった。

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