31.初めての合奏

「そろそろ合奏の時間ですね」

「楽しみです!」


 ジュルアさんと練習をしていると、あっという間に時間が過ぎていた。

 練習場に続々と人が集まってくると、段々と賑やかな雰囲気になる。


「今日からよろしくね」

「はい! よろしくお願いします!」


 そんな会話をしていると、ジュルアが私の横腹を指で軽く突く。


「緊張してますわね」

「そんなことないもん」

「大丈夫ですよ。私も初めての合奏は緊張してましたから」


 そう言って、ジュルアは親指を立てる。


「アイラはすごいピアニストだからこそ、自信を持ってください」

「ありがとね。すごい勇気が出た!」

「ふふっ。ベンさんに褒められると良いですね」


 ジュルアに悪戯っぽく笑われて、少しだけ頬が熱く感じた。

 公爵邸に帰った後にベン様から褒めてもらう様子を想像すると、ニヤニヤとした表情になってしまう。


「何か妄想でもしているのですか?」

「な、なんでもないよ!?」

「集中しますよ」


 ジュルアはそう言って、ヴァイオリンを構える。

 私はピアノの椅子に座ると、頭の中でメロディーを思い浮かべた。


「行くぞ」

 

 ベン様が指揮棒を取ると、とても様になっている。

 私はゆっくりと息を吐いて、ベン様の動きをじっと見つめた。

 音楽団全員の呼吸が共鳴して、ベン様の指揮に合わせて音が響く。

 

 何十もの音が重なって一つの旋律になると、部屋の中が優雅に彩られた。

 あちこちから音色が聞こえてきて、縦横無尽に駆け回っている。

 王国でもトップクラスの音楽家達が集まって演奏すると、こんなにもすごい演奏ができると感動を覚えた。


 そんなことを考えていると、ピアノが主旋律のメロディーに突入する。

 風のように流れるメロディーに乗って、私の指は鍵盤の上を駆け抜けた。


「はぁ……はぁ……」


 演奏に没頭していると、一気に時間は過ぎていく。

 いつの間にか一曲弾き終えて、私は肩で息をしていた。


 ジュルアを見ると、私に向かって親指を立てている。

 それを見て、私も親指を立てた。


「かなりいい感じだな」

 

 ベン様も笑っている様子を見て、私は安心でため息を吐く。


「細かい部分を修正したら今日は解散にしよう」


 そう言って、ベン様は譜面に手を掛ける。

 何フレーズか演奏を終えると、すぐに解散になった。

 みんなが楽器を片付けている中で、ベン様は私の方へ駆け寄る。


「音楽団はどうだったか?」

「優しい人ばかりで、演奏も完璧でした!」

「本当に自慢の仲間だよ」


 そう言ってベン様は周りを見渡す。

 全員での演奏は王都一と呼ばれるにふさわしいものだった。

 そんなことを考えていると、明日の練習も楽しみになってくる。


「明日も練習ですよね!?」

「あぁ。楽しみか?」

「はい!」


 ベン様は嬉しそうに笑うと、ジュルアが私の方へ駆け寄ってきた。


「また明日会いましょう!」

「うん! また明日ね!」


 ジュルアは挨拶をすると手を振って帰ろうとする。

 ジュルアの影が見えなくなるまで、私は手を振った。


「帰ろうか」

「はい!」


 今日あったことを思い浮かべて自然と笑顔になる。

 明日の練習を楽しみに思いながら、私は馬車に揺られた。

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