32.歓迎会

 音楽団での練習が始まってから、10日ほどが過ぎる。

 ジュルア以外に何人も話すようになった。

 今日も音楽団での練習のためにホールへ向かう。

 

「今日もよろしくね!」

「え、ええ。よろしくお願いします」


 たまたまジュルアの姿が見えたから、私は手を振って挨拶をする。

 だけど、どこか素っ気ない気がした。


「元気ないね。大丈夫かな?」

「い、いえ。全然元気ですよ?」


 そう言って私から目を逸らすジュルアを見て、怪しいと思う。


「無理はしたらダメだからね!」

「大丈夫ですよ。無理はしてません」

「なら大丈夫だね!」


 私が笑顔で親指を立てると、ジュルアはため息を吐く。


「本当に大丈夫なの?」

「なんでもありませんからね!」

「なんか、変だよ」


 ジュルアの様子がいつもと違うことに不安が募る。

 そんなことを考えていると、集合の合図がかかった。


「大丈夫かな?」


 幸い練習中のジュルアはいつも通りの表情をしている。

 それでも、私と話す時だけは様子が変だった。


「お疲れ様でした!」


 モヤモヤとした気分のまま練習の時間が終わる。

 私は荷物をまとめて公爵邸に戻ろうとするが、みんなは一向に帰る気配がない。


「何か手伝った方がいいことはありますか?」

「すまないアイラ。少しだけ待っててくれ」


 何か用事があると思ってベン様に声をかけるが、そっちも様子が変だった。


「分かりました……」

「また埋め合わせはするさ」


 そう言ってベン様は私の手を優しく握る。

 他のメンバーもいつもと違う態度を見て、何か悪いことをしたかもしれないと不安な気持ちが湧き上がった。


「大丈夫かな?」


 悪いことをした心当たりは全くない。

 どうしてみんな様子が変なのか分からず、モヤモヤしたまま夜を過ごす。


「ふわぁ」


 朝起きても状況は変わらず、心の中に霧がかかったままだった。

 ベン様は何故か気分が良さげな表情をしている。


「嬉しそうですね」

「そうか? いつも通りだぞ」


 ベン様は誤魔化すように笑うと、余計に分からなくなってきた。

 気分が晴れないまま、音楽団の練習場に到着する。

 みんな私を見るとクスクスと笑って無言で手を振った。


「ありがとうございました」


 練習はいつも通りに進んで、あっという間に時間が過ぎる。

 

「アイラ。付いてきてくれ」


 練習が終わって荷物を片付けていると、ベン様はいきなり私の手を取った。

 そのまま何も教えてくれず、どこかに向かって歩き出す。

 大きな部屋の前に到着すると、ベン様はゆっくりとドアを開く。


「アイラ! 入団おめでとう!」


 部屋の中で音楽団のみんなが拍手をして私を迎える。

 

「えっと。これは?」

「驚いたか?」

「はい……」


 ベン様は私を抱き寄せると、強い力が伝わってきた。


「改めて、入団おめでとう」

「ありがとうございます!」

 

 盛大な拍手と声援が部屋を響かせる。


「今日はアイラの歓迎会だ! アイラの入団を祝して乾杯!」


 そんな掛け声と同時に私の歓迎会が始まった。

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