29.反対
私に向く人差し指に全員の視線が集まる。
照明に反射して輝く金色の髪を靡かせて女の人はゆっくりと前に出ていく。
どうして入団を反対されたかわからず、私は困惑してしまう。
「ジュルアはなぜ反対する?」
ベン様が質問すると、練習場の空気が重くなる。
緊張感が支配する中で、ジュルアさんの吐息が溢れる音が聞こえた。
「アイラさんはベンさんの結婚相手ですので、身内贔屓をしているかもしれません」
「しかし、アイラの入団推薦をしたのはセリナだ」
「っ……」
ジュルアさんの表情が曇る。
それでもゆっくりと歯を噛み締める音がよく響いた。
「しかし、アイラさんが音楽団で通用する演奏ができる証拠にはなりません」
「そうだ! アイラ嬢の実力は本物か!?」
「ベン様とセリナさんの言葉を疑う気ですか!?」
ジュルアさんの言葉がきっかけで、あちこちから意見が飛び交う。
そんな様子を見て、私は下に俯く。
「ごめんなさい。私のせいで変な空気にしてしまって……」
ベン様が私の顔を覗き込むと、大丈夫と励ます。
「すぐに収集がつくさ」
そう言って、ベン様は大きな音を響かせて手を叩く。
「アイラの演奏を聴いてから議論をしろ。それこそ時間の無駄だ」
「分かりました……」
ベン様の掛け声で練習場は静まる。
ジュルアさんもそれに納得したようで、後ろの下がった。
「準備は良いか?」
「はい。頑張ります」
「アイラなら大丈夫さ」
私は顔の前で手を合わせる。
指の先まで張り巡らされている神経に意識を集中させた。
「ふぅ……」
心の中に溜まっている不安や緊張をゆっくりと息として吐き出す。
いつの間にか頭の中はスッキリとしていて、自然とメロディーが思い浮かぶ。
「いくよ」
小さく呟くと、指が鍵盤の上を走り出す。
軽快だけどガラスのように繊細な音が練習場に鳴り響く。
「良い感じ」
音楽団のメンバーが私の演奏に集中している様子が伝わってくる。
もっと私の演奏を聴いて欲しい。
そんなことを考えていると、更に演奏に意識を集中させる。
「もう十分だ」
夢中になって演奏をしている中、ベン様の声が聞こえてきた。
ふと周りを見ると、まばらに拍手が私に向けられている。
「アイラの演奏で王都でも最高と呼ばれる音楽家を感動させたんだ」
「すごかった!」
「疑ってごめんなさい!」
そんな声があちこちから聞こえて、胸の中に熱が灯った。
拳を強く握って、喜びが身体中を駆け巡っている。
「ごめんなさい……」
祝福されている中でジュルアさんが私の手を弱い力で握った。
「アイラさんの入団を止めてしまって……」
「全然気にしてないですよ」
「ありがとうございます……」
私は暗い表情をしているジュルアさんの手を強くギュッと握る。
「もし良ければ、ジュルアさんと仲良くしたいです」
そう言って、私はジュルアさんに笑顔を向けた。
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