7.公爵様との対面
「ベン・リンドヴルムだ」
低くて芯のある声が響くと、もう既に私はベン様に目を奪われていた。
短く整えられた金髪に深青の瞳は凛々しいという言葉が最も似合うと思わせる。
ほんのりと漂う香水の匂いは上品さをより際立たせた。
そんなベン様の溢れ出る気高さに私は息をグッと飲む。
「どうした? 入らないのか?」
「あっ、失礼致しました……」
ベン様の指摘で我に返ると、私はお母さんに教わった礼儀作法を必死に思い出す。
「アイラ・サートンです。よろしくお願いします」
「そこにかけてくれ」
席に着くと、なんとか礼儀正しく対応できた安堵感で息が溢れる。
ベン様はナターシャさんに紅茶を用意させると、ゆっくりと息を吐いた。
「急な婚約ですまなかった」
「い、いえ、ベン様のような素敵な男性に求婚していただいて光栄です」
「世辞は必要ない」
ベン様は噂通りの冷たい目線で私を見つめる。
気まずくなって話を切り出せないでいると、ベン様はそっと息を吐く。
「楽にしてくれて構わない。ここは君の家でもある」
「ご、ごめんなさい」
「なぜ謝る?」
ベン様の言葉に何も言い返せない。
気まずい空気感に耐えられずに何か話題がないか必死に頭を回す。
「お若いのですね」
公爵家当主ということもあって、もっと年齢が上だと思っていたが、そこまで離れているようには見えなかった。
年がかなり離れていることに不安を感じていたから、その点は安心できる。
「ああ、二年前に父親の腰痛が悪化して、俺が代替わりをした」
「そうなんですね……」
ようやく何か会話の種を出したと思っても、すぐに途切れてしまった。
それから何度か話題を出すが、そっけなく返答される。
私はベン様との距離感に戸惑っていると、ナターシャさんのノックが部屋に響く。
「紅茶をお持ちいたしました」
「ありがとうございます」
淹れたての紅茶は温かい湯気を浮かばせている。
人生で初めて飲む淹れたての紅茶に私はワクワクとした感情を抱く。
「熱っ」
舌がヒリヒリする感覚に驚いて、思わずティーカップを落としてしまう。
パリンと甲高い音が響く。
我に返ると、綺麗なカップが床で粉々になっていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
こんな高価なティーカップを壊したら、ベン様は絶対に怒るだろう。
そう考えると、震えと冷や汗が止まらない。
家を追い出されるかもしれないと嫌な想像ばかりが脳内を駆け巡らせていると、背中に温かい何かが触れる。
「大丈夫か?」
涙でぼやけた目を擦ると、ベン様が私の背中をさすっていた。
「ベン様!?」
整った顔が近いことに驚いて、私は飛び起きてベン様と距離を置いてしまう。
「すまない。淑女の体に勝手に触れてしまって」
「い、いえ、それよりも大切なものを壊してしまって……」
「また買えば良いさ」
さっきと同じように無表情のまま呟く。
だけど、その声は少しだけ優しく聞こえた。
「それより、怪我はないようだな」
「はい……」
ベン様は安心したように吐息を溢すと、そのまま婚約に関して話を始める。
そんな様子に私は温もりを感じて、ベン様は噂通りの悪い人ではないと思った。
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