第22話 アデリアーナの困惑
入学式直後、ガイウスに抱き抱えられたアデリアーナのほうはどうだったかと言うと……。
アデリアーナは教室の席まで降ろしてはもらえなかった。
「ありがとうございました」
「いやいや、こんな事はお安い御用。役得なので気にしないでいただきたい。それでは自分はこれで失礼する」
彼の騎士らしい所作のおかげで、抱きかかえられていた事も色恋ごとではなく医療行為に順じる
「きゃあ! カウロ様カッコ良かったですわ」
「生カウロ様、初めてお目にかかりました〜」
「アデリアーナ様、お怪我なさった甲斐がございましたわね」
「怪我の甲斐……ですか?」
あまりのポジティブさにアデリアーナは目を白黒させる。
「カウロ様ってエドウィン殿下のお側にいらっしゃるから、なかなか近くで拝見できないですものね」
「やっぱりがっしりなさっていて……あぁ、あの胸板の厚みといったら……!」
「お兄様から聞いたのですが、カウロ様の剣裁きは惚れ惚れするほどカッコ良いのですって」
「そういえば今度、剣闘会がありますでしょう?」
「私、兄に連れて行ってもらいますの」
アデリアーナの周囲は令嬢たちで埋め尽くされ、
それを遠巻きに男子生徒がうっとりと眺め、至福の光景を楽しむ。
ただ、このクラスの雰囲気もアデリアーナが見た予知夢と変わっているのだ。
本来なら、アデリアーナの周囲には誰も近寄らず、遠巻きにされたはずで……。
もしかして、あの予知夢の未来は閉ざされたのかもしれないと……アデリアーナは思い始めていた。
そして家族との面談。
今日から学生寮で暮らす生徒たちは、夏季休暇まで基本的に家族の元へは帰れない。
だからこそ、しばしの別れを偲ぶのだが……。
「
「まぁ、セドリック。お父様とお母様は?」
「知り合いに捕まってるよ」
「置いて来たの?」
「だって大人の話は長いからね。あいさつはしたから大丈夫だよ」
ちゃっかり者のセドリックらしい言い分だった。
「
「え?」
「飛び級試験、受けたら受かっちゃった。えへへ」
「えぇ⁉︎ なぜ? あなたは来年入学のはずでしょう?」
あまりの事に淑女の仮面もどこかへ飛んでしまった。
「だって、一年遅く入学して一年遅く卒業して……って結局二年も
「酷いって……」
「ねぇ、ボク頑張ったんだよ?」
褒めてほめてと強請るセドリックの頭を無意識に撫でるアデリアーナ。
おかしい……。
去年まではここまで
これは一体どうなっているのか?
考えているところに両親が来て、思考は中断される。
* * * * *
そして今度は朝会えなかったエドウィンと、特別寮の王族専用リビングで会うことに……。
「アデリアーナ、久しぶり。やっと会えたね」
いきなり出迎えられたと思ったらガッツリハグされて面くらう。
「エドウィン殿下もごきげん麗しく存じ上げます」
「ほかに誰も居ないんだし、堅苦しいあいさつなど要らないよ。さぁ、こっちへどうぞ」
そういって導かれたのは、ピッタリ寄り添わないと座れないラブソファー。
「え⁉︎」
「あれ? アデリアーナはこっちのほうが良かったかな?」
言うのと同時に抱き上げられ、降ろされたのは殿下の膝の上。
「あの……」
「ん?」
「こここ、これは……?」
半分天国に足をかけていたアデリアーナは、頑張って現実世界に止まろうとしたが、エドウィンの輝く笑顔に抗えない。
エドウィンたちは昨年から学園生活を送っている。
だからアデリアーナはこの一年間、長期休暇しかエドウィンとは会っていなかった。
確かに以前よりはエドウィンの様子が変わって、アデリアーナを単なる政略結婚の相手として見ているわけでは無いのかもしれないと思われる事はあった。
しかしここまで親しく、親密にされたのは初めてな気がする。
この一年、いや半年ほどの間に、一体何があったのだろうか?
変化の原因にまったく心当たりが無く、アデリアーナは困惑しきりだった。
「はい、あーん」
「あーん?」
ポケーっと考え事をしている間に、口に何かが入れられた。
何が起きたのか口にものが入って初めて気が付き、見る間に赤面する。
待って、まって。
いまのって?
もぐもぐもぐ……。
「王都で流行りのケーキだよ」
きゃあ〜。
殿下に食べさせてもらったのぉ〜!
ひざから下ろしてももらえず、挙句の果てにあーん?
「おいしい?」
「……おいしいです」
アデリアーナの何かがゴリゴリと削られていく。
「来週にはセドリックも来るんだろう? なら今のうちに私はアデリアーナを独り占めしておかなくてはね」
「それはどういう?」
「いや、なんでもないよ。気にしなくて良いんだ」
エドウィンがいい笑顔でそう言った。
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