第23話 エピローグ

 エドウィンは思う。

 もし自分が学園に入ってすぐの頃、セドリックが見た予知夢の話を聞いていなかったらどうなっていただろうと……。


 あの時のエドウィンは、アデリアーナを単に政治的な思惑から、子供のころより面識のある公爵令嬢が選ばれたとしか思っていない。

 故に恋愛感情は無くても、冷たく接する事はなく婚約者として尊重していたし、贈り物や手紙のやり取りもしていた。


 だから卒業の翌年に設定されている結婚や、その後の生活にも不安は感じていなかったし、現国王夫妻のような穏やかで仲の良い夫婦として暮らせるようになると思っていたのだ。


 そんなエドウィン、アンセム、ガイウスの三人にセドリックの予知夢は衝撃をもたらした。



「僕はあの話を聞いたとき、まさかと思いました」

「俺だってそうさ」

「堅物のアンセムはともかく、ガイウスは有りそうでなぁ」



 しみじみと言う二人にエドウィンがからかい半分の言葉を投げる。



「いや、俺だってあそこまで変な奴は、警戒すると思うぞ?」

「でも見た目はとても魅力的な女の子でしたよ?」

「ガイウスの好みど真ん中だっただろう?」

「え?」



 友人二人に言われて気まずいのか、後頭部を掻いて目を逸らす。



「何にしても、私は今回の事がこれくらいで済んでホッとしているよ」

「アデリアーナ様の怪我だけは、申し訳なかったと思っています」

「セドリックの予知夢が無かったらと思うとゾッとするけどな」



 三人ともしみじみと頷いている。

 そしてそれぞれがこの一年弱の出来事を思い出しているようで……。



「最初は何をしても予知夢に変化がなくて、どうしようかと本気で悩みました」

「だいたいあのパナピーアとか言う女が見つからないのがヤバかったよな」



 アンセムが遠くを見詰め、ガイウスが神妙な顔で眉を顰める。


 彼らは四人で色々試してみた。


 その最初にしたのが、パナピーアが本当に存在するのか確かめる事だった。

 それと並行して……。



「二人には悪かったが、私は割と楽しかったよ」

「えぇ、そうでしょうとも。イチャイチャしているだけでしたからね」



 アンセムが横目でチロっと見るが、エドウィンはまったく気にならないらしい。



「イチャイチャって……私は頑張って口説いていたんだけどなぁ」

「まぁ。もう一つの方針が『婚約者との仲を良くする事』な時点で、そうなるって分かってたから良いけどな」



 エドウィンがわざと心外そうに言うと、ガイウスは呆れたように肩をすくめぼそっと零す。


 何をしたら回避できるか分からない以上、ほかにできる事はそれしか無かった。

 この『アデリアーナと仲良く作戦』で楽しかったのは、エドウィンともう一人……セドリックだ。



「アイツもちゃっかりしてて、自宅でのケアは任せろとか言ってたもんな」

「セドリックはただ単に、義姉あねに甘えてただけだと思いますよ?」



 ガイウスとアンセムは嘆息する。

 目の前のエドウィンは苦笑いだ。



「あの学園の臨時講師を不採用にできた辺りから、やっと予知夢の内容が変わって来たらしい。あのマーリーンとかいう魔法師はこのまま魔法師団の研究室に軟禁だな」

「人聞きの悪い……魔術師団内に個人の研究部屋を資金付で用意しただけです」

「それはもう、外に出てこなくて良いと言っているようなものだが?」

「まぁ、野放しにできないのは事実ですからね」



 エドウィンとアンセムが悪い顔で笑いあう。



「でもこれで本当に回避できたんだろうな?」

「たぶん……」

「おいおいアンセム。そこは『大丈夫だ』って気休めでも言ってくれよ」



 不穏な言葉にガイウスが嫌な顔をした。



「心配するな。私はこれからもアデリアーナとはするつもりだ」



 沈黙が訪れ、エドウィンを二人が生暖かい目で眺めるのだった。



「どうぞ、お幸せに」

「俺らに見えないとこで頼む」



 エドウィンたちは、アデリアーナに今回の種明かしをするつもりはまったくないようだし、きっとこれからも彼女を守り続けるのだろう。


 どうやら悪役令嬢が折られたフラグに気が付く事は無く終わるようだ……。

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