第13話 現実のガイアス
入学式は滞りなく終了した。
アデリアーナは号令に従って起立する。
このあとは案内に従い教室に移動して、ホームルームが終わったら家族との面会となる予定だ。
王族、公爵、侯爵、特待生が特別クラスとなり最初に移動し、貴族クラスと一般市民クラスが続く。
パナピーアは男爵家なので様子を見るのは難しそうだ。
それでもなるべく最後尾になろうとアデリアーナはゆっくり歩く。
足も痛いしちょうど良いとばかりにノロノロとホールの扉を出たら……。
出口の正面にガイウスが立っていた。
なるほど、ここで新入生を見ていたならパナピーアの様子に気が付いたとして不思議ではない。
ならば包帯はしていなかったとしても、もし足を引きずっていたとしたらやっぱり気が付いて、ガイウスとの出会いが起きる可能性はあるわけだ。
これは回避が難しいかもしれない。
アデリアーナは前の人に遅れないように、痛みのあるヒザを庇いながら必死に付いていく。
「アデリアーナ様」
「はい?」
呼ばれて振り返る。
そこには濃紺の壁があった。
「足をケガされたと聞いています。自分にエスコートさせていただけないでしょうか?」
「へ?」
アデリアーナは驚き過ぎて声が裏返った。
状況を掴むまでワンテンポ遅くなる。
どうやら濃紺の壁は制服姿のガイウスだったらしい。
「あの……」
「殿下はこのあと理事長と共に留学生の家族とのあいさつが残っていますので、自分がエスコート役を仰せつかりました。どうぞよろしくお願い
「……はい?」
アデリアーナはまたもや大混乱である。
どうして⁉︎
これではパナピーアさんと出会えなくなってしまいますわ。
いえいえ、出会わないでくれて良いのですが……でも夢とぜんぜん違いますわよ?
「ではお手を……」
「あ、はい」
有無を言わさぬガイウスに気圧され、アデリアーナは流された。
ガイウスが声を掛けたことでアデリアーナ──王太子の婚約者がここに居るという情報も拡散されていく。
そのさざ波のように広がる騒めきの中、ホールから人を押しのけるようにして姿を現したのはパナピーアだった。
彼女はアデリアーナとガイウスが寄り添うように立っている姿を見て動きを止めた。
「ななな、なんで⁉︎」
棒立ちになっているところを後ろから押されてハッとした。
パナピーアは慌ててガイウスに近付こうとするが、意外と人が居て思うように進めない。
ちっ!
なんでアデリアーナがエスコートされてるのよ。
あぁ、本当はあたしがガイウス様にエスコートされるはずなのに……なんで?
そうだ! 今からでも、あたしを見てくれたら良いのよ。
そしたらきっと、ひとめ惚れしてくれるに違いないのに!
口の中でもごもごと悪態を
せめて睨んでやれとばかりに鋭い視線をアデリアーナに向けていると、ガイウスが振り返った。
ガイウス様がこっち見たわ⁉︎
パナピーアは嬉しくてパッと笑顔になった。
ガイウスは何か探すように周囲を見回し、彼女のほうを向いて目が合った途端……。
思いっきりパナピーアを睨んだ。
え⁉︎
どうして?
パナピーアの瞳が大きく開かれ
彼はまだパナピーアのほうを見ていたが、その目はどう見ても恋したようには見えない。
ガイウスとしては悪意ある視線が飛んできたから警戒したら、そこにパナピーアが居ただけなのだが……。
パナピーアは自分の思った通りにならなかった事は驚きであり、悲しむべきところだったようだ。
彼女の瞳からポロポロ零れた涙はガイウスには一切感銘を与えることなく、その代わりと言って良いかは微妙だが、パナピーアの傍にいる男子生徒が頬を赤らめている。
そしてその一部始終を見てしまったアデリアーナは、またもや混乱した。
ガイウスとパナピーアの出会いで、予知夢の通りにならないかと心配していたのに拍子抜けも良いところだ。
もしかして、アンセムに続いてガイウスの出会いも上手くいかなかったという事は、あの予知夢の回避ができたのだろうか?
ずーっとそんな事を考えながら歩いたのでアデリアーナは躓いた。
──何もない所で。
「やはり歩くのは無理ですね」
「え⁉︎」
「最初からこうしたほうが良かったのです」
「えぇっ!」
ガイウスは上機嫌でアデリアーナを抱き上げると、パナピーアなど気にする事なく歩み去っていった。
パナピーアが慌てて、必死に人混みを掻き分けて追いかけようとする。
しかし既に時遅し。
ガイウスはアデリアーナと共に立ち去ってしまった。
「ガイウス様? なんであたしを睨んだの……? しかもヒロイン置いて行くとか。無いわ~」
パナピーアの困惑した呟きは彼に届く事はない。
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