第12話 予知夢のガイウス

 そしてガイウスとの出会いの時がやってくる。


 入学式のあと、各クラスに生徒が移動してホームルームがある。

 予知夢ではこの移動の時、捻挫して足に包帯を巻いたパナピーアに誰も手を貸さない。


 これはパナピーアが男爵家の庶子で、昨年までは一般市民だったのを父親が実子と認めて引き取り貴族入りした経緯が災いしている。


 普通の貴族の子女は、幼い頃からお茶会やサロンで交流があったり、家庭教師や習い事の教師が同じで接点があったりと、大まかに上流、中流、下流と、それぞれの階級で交流するものだ。

 しかしパナピーアにはそういった繋がりが無いどころか、父親がボンクラなのか根回しさえされていなかった。


 当然、紹介も挨拶もした事のないパナピーアに話しかける奇特な者は皆無だったのだ。


 そしてそれを見かねた上級生のガイウスが、パナピーアに声をかけ教室まで腕を貸す事になる。


 騎士団長の父を持ち、代々騎士として功績を上げてきた家の彼は騎士道を重んじていた。

 このひとりぼっちの幸薄さちうすな守ってあげねばならないパナピーアは、予知夢の中のガイウスには理想にピッタリの女の子に見えていたらしい。



「その足で歩くのは辛いだろう?」

「え!?」

「自分にエスコートを任せてもらいたい」

「ありがとうございます。あたし、パナピーア・ヒルドです。あなたは?」

「いや、名のるほどの者では……」

「でも、もうこれからはお友達でしょう? お名前が分からないと困っちゃう……ますよね?」



 パナピーアは自分が気に入った人なら、出逢ってすぐに敬語は使わなくなるのが通常状態だ。

 普通なら忌避されるかもしれないおこないでも、彼女の外見の良さに男性ならすぐ『そんなのは些細なこと』と許してしまう何かがあるらしい。


 そしてこの天然加減と押しの強さはガイウスには効果的だった。

 力の加減を間違えたらすぐ壊れてしまいそうなご令嬢たちに彼は強く出られない……というゲームでの設定があり、一度ガイウスと親しくなったヒロインは出会う度に『何かしらの情報を強請ねだる』というミニゲームができるようになる。


 だから他の攻略対象者とは違い、ガイウスとはちゃんと初日に出会って会話の正しい選択肢を選び続ける必要があるのだ。


 そしてガイウスと交流して好感度を早くから上げる事で、初日のイベントで高得点が得られなかった人の情報を手に入れて挽回する。

 攻略は一番簡単だけど、その後の会話やイベントは他の人を攻略する上で重要になるので、すごく気を使わないといけないのも彼なのだ。


 これはもちろんパナピーアしか知り得ない事。

 予知夢を見たアデリアーナからは別の見え方をしていた。


 ガイウスは足首に『包帯を巻いて、独りで歩きにくそうにしているパナピーア』を見付け、親切心から手を差し伸べるのだ。


 ここでアデリアーナは『あれっ?』と思う。


 これ、歩きにくそうにしていただけで包帯が無かったら……ガイウスは声をかけるのだろうか?


 逆に、このまま予知夢の通りの展開にどうやってなるのか興味さえ湧いてくる。

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