第14話 相談室

 時は少しさかのぼる。


 入学式で遅れてくる人物はセドリックだけだったはずなのに、なぜ予知夢と違っていたのか?


 これには先ほどの『アンセムとの出会い』が不完全だった事が関係していた。

 しかもアデリアーナには思いもかけない展開が隠されているのだ。



 * * * * *



 アンセムに睨まれて、不本意ながら医務室に先触れをさせられたパナピーア。

 彼女はそのまま軽い診察を受けていた。

 結果はあの時女性医師が言っていたとおり、まったく怪我らしいケガはしていない。


 普通ならここで、あぁ良かったね……で終わるのだろうが……。

 彼女の場合ここで終わりではなかった。


 何故なら彼女がぶつかって怪我をさせたのは、筆頭公爵家の令嬢にして王太子の婚約者だったから。

 アンセムはアデリアーナを医師に任せると、即座にエドウィンの元へ情報を届けた。



「申し訳ありませんでした」

「大した事がなかったのは、お前がかばってくれたからだろう? だからそう悔やむな」



 後悔を滲ませて頭を下げるアンセムの肩をエドウィンがポンと叩く。



「それよりも私は今控え室ここから動けない。そっちのほうはガイウスがいるから大丈夫だと思うが。──お前が私の代わりに立ち会って来てくれ」

御意ぎょい



 エドウィンのいつに無く厳しい言葉により、アンセムはガイウスのいる場所へ向かった。

 薄暗い半地下の廊下に幾つものドアが並んでいる。

 その中の一つ──相談室と書かれたプレートのの小部屋のドアをノックした。



「アンセムだ」

「入れ」



 男性のいらえでアンセムは、左壁に大きな鏡のかかった室内へと入っていく。



「どうだ? ガイウス」



 呼ばれた彼は、この国の騎士団長の長男でアンセムと同様にエドウィンの側近だ。

 短く刈り込んだ真紅の髪と、鮮やかなグリーンの瞳をした精悍な青年で、予知夢に出てきた四人の中で一番大柄でがっしりしている。


 そんな彼だが、学生の間は主にエドウィン王太子の護衛も兼ねた学友という立ち位置で、学内でのトラブルは彼の担当だった。



「本人いわく、前方不注意だそうだ」

「はぁ?」



 そう言って椅子に腰掛け、壁の鏡を見る。

 しかしそこにあるのは鏡でなく大きなガラス──すなわち窓であり、魔法付与でマジックミラーのようになった窓ガラスの向こう側に見えるのはパナピーアの姿だった。


 彼女が入れられた部屋は、通称『呼び出し部屋』と言われている場所。

 校内で問題を起こした時などはここで事情を聞かれたり、反省を促したり、そういった目的のための部屋として知られている。


 そして相談室の隣には一般生徒には知らせていない機能として、尋問にも対応できるように監視用の小部屋が作られていた。


 教室の四分の一程度しか無い小部屋にシンプルな机が一つと椅子が四脚。

 部屋の奥側にパナピーア、廊下側に風紀指導の教員が座っている。

 机の上では自動書記の羽ペンが動き、二人の会話はひと言ものがさず記録されていく。

 映像や声も魔道具で記録していて、スピーカーからは二人の会話が監視部屋に筒抜けだ。

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