物語の始まり

24話 陰キャがすることなんて万物共通

■■■■■


いつもの日常が待っていると思っていた。

そろそろ雨が多くなる季節だな。とか、くだらない事を考えながら過ぎゆく日を淡々とこなしてゆく、そう思っていた。

「雄大。おはよっ!!」

「樹ぃ!おはー!」

陽キャで多くの友人がいる雄大が教室へ入るなり、はけてゆく。俺は静かに、他人に目をくれる事なく、自分の席へ向かった。教室後ろ、窓際の席。

この陰キャにはもってこいの特等席を、俺は、先週の席替えで、手に入れることができた。

1限目まで時間が少しある。

最近の仕事のたまり具合的に、自前のノートパソコンを持ってきて学校でも執筆をしたい気分だが、小説家であるとバレるのは嫌なので、できない。

となると、陰キャのすることなんて万物共通。

そう。読書だ。

小説家になれば、自分の小説がぶれないように、変に刺激を受けないように、他人の作品を読まなくなると言う作家もいると聞いたが、俺の読書週間は何も変わらなかった。一度本屋へ赴けば、一万円札が優に消えるレベルで単行本や漫画を買うし、小説投稿サイトのWebやアプリで読宣アカウントから雑多に読み漁る。『ラノベ、まじで面白い。異世界、超能力、中二病、実力隠し系、やり直し、ラブコメ、ファンタジー、てか、ラノベ、マジ最強。』

日本人に生まれて良かった。

ありがとう。神様。

俺は、鞄からブックカバー付きの愛読書ラノベを取りだし、栞を挟んだページを開いた。




■■■■■



朝の日差しを浴びながら、静かに読書をたしなんでいると、横から俺の名前が呼ばれた。

「西野君。おはようございます。」

陰キャは皆、可憐な姫に声をかけられると、一瞬、声帯が機能しなくなる。

もちろん、俺も。

「....ぁ、」

突然で声が喉に突っかかった。


「ああ。えっと、、、櫻崎さん。おはよう」

ようやく出たその声で、俺は、社交辞令的な淡泊な返事を返した。

そして、視線をまた、本へと戻す。

隣の席の櫻崎さんは、教科書を机に仕舞い、カバンを横にかけ、椅子に座った。

マロン色の髪が窓から入ってくる風にふわりと舞った。俺のほうが窓際なのに、柔軟剤の香りが鼻をくすぐる。ただ、それと同時に教室中の視線が俺に刺さる。

「ちぇ、いいなー。

西野の奴、櫻崎さんに声かけてもらえて。」

「マジで、あの席ズルいよなー。」

クラスの男子が囁やき、愚痴り、チラチラとこちらを見ている。

「あんな美少女の隣とか。俺、絶対、勉強頑張れる!姫様の隣ってだけで、偏差値上がる!!!」

「馬鹿だなー。お前の場合、逆に、姫様が気になって授業に集中できなくなるから、さらに成績下がるだろ!」

「....確かに。ってか、それヒド‥!!」

「にしても、姫様、今日も可憐だな~。」

「ああ。可愛い姫様」

クラスがざわめく。




たったイチニコト言葉を交わすだけで、この有様。

隣人に気軽に話しかけると恨みを買う理不尽さ、面倒ごと以外の何ものでもない。

はぁ。




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