学園探険(2)

 奈子なこの言っていたとおり、林檎りんごは浜辺で力尽き倒れていた。

 奈子と亜仁あには、両脇から林檎を持ち上げ支える。


「……今日はそんなに異能を使ってないから、平気だと思ったのよ……」


 と、持ち上げられながら、林檎はそう呟いていた。


 せつなは心配そうに林檎を見つめていたが、その視線に気づいた亜仁は「へーき、へーき」と笑った。


「今は林檎を保健部へ連れていこう。ついでというわけではないが、それから、せつなはわたしと学園内を巡ろうか。いろいろと、この学園のことを教えるよ」


 奈子の誘いに、せつなの顔は明るくなる。


 保健部へ向かう中、亜仁はせつなに、


「そういえば、せつなちゃんの異能はどんなのなの? あのとき、突然わたしの目の前に現れたようなんだけど……」


 と、聞いた。


「わたし、『瞬間移動』が使えるんです。まだまだ使いこなせているとはいえませんけど……。でも、あのときは亜仁先輩が助かってよかったです」


 せつなは答えると、奈子も「本当によかった」と、話す。


「せつながあのとき動いてくれなきゃ、亜仁はアイツに怪我を負わされてた。最悪……死んでしまったかもしれない。せつなは、命の恩人だよ」


 奈子に褒められ、せつなは頬を赤らめた。


「……あの、先輩方の異能は、どんな力なんですか?」


 今度は、せつなが三人へ質問をした。

「そうだね……」と、奈子は、その質問に答える。


「まず、わたしは風を操れる異能、かな? 周囲の風の強さや向き……あと空気を圧縮したり……自由自在にできるんだ。それを使って高くジャンプしたり、空を飛ぶとまではいかないけど、ある程度空中にいることだってできるんだ」

「あ! だから、ソラビトに攻撃するときもあんなに……!」

「ま、それに関してはてっちゃんの功績もあるけど……まあ、あとで話そう」


 奈子の説明が終わると、次に亜仁が話し出す。


「ボクはねぇ、この声が異能そのものなんだぁ。『言葉は時に刃となり、他者を傷つける』なんていうけれど、ボクの場合は、まさにその言葉どおりなんだ。そして、何よりボクが『命令』すると、命令された人は絶対にわたしに服従しなくちゃならないんだよぉ〜」


 亜仁は自身の異能を説明し終えると、せつなを見つめた。それから、亜仁はニンマリと気色の悪い笑みを浮かべるや、


「――さあ、せつなちゃん! 今ここで、その制服を脱いで、ボクにご奉仕したまえ!!」


 と、言い放った。


「……え、えぇ!?」


 顔を真っ赤にして、慌てふためきながら、とっさに胸を隠すポーズを取るせつな。


「ど、どうしよう、わたし……!」

「こら、亜仁! くだらないからかいはやめるんだ! せつなが怖がってるんだろう」


 奈子は亜仁を叱りつけ、二人に支えられている林檎も亜仁を窘めるかのように、「……フン!」と、わずかな力で亜仁に頭突きした。

「……あうっ。もう、冗談じゃんか〜」と亜仁はうっすらと目に涙を浮かべた。


 まだ不安が拭えないせつなに、奈子は優しく微笑みかけ、


「大丈夫だ。亜仁の異能は人には効かない。動物とソラビトだけしか効かないよ。まあ、その成功率も100パーセントではないけどね」


 と、再度説明すると、せつなはようやく安心し、腕を下ろした。


「ちなみに、飼っていたワンちゃんが、どうもボクの言うことばかり聞いてくれると思っていたけど、実は異能のおかげでした〜っていうのが、ちょっとしたおまけ話」


 すでに調子を取り戻していた亜仁は、そんなエピソードを語った。


「……で、最後に林檎だけど……」


 奈子は、すっかり顔を青くしてしまっている林檎を見つめた。


「ひとことで言うと、物体を爆弾に変える異能、だね」


 せつなは『爆弾』という言葉を聞き、目を丸くした。


「林檎ちゃんが、この中では一番戦闘向きな上、攻撃力が高いよねぇ」

「ああ。だがその分、わたしらよりも遥かに体力の消耗が激しい」


 奈子は笑って、言う。


「さっきはああ言っちゃったけど、林檎にとって間食おやつは、栄養を補う上でも大切なことなのかもね。……まあでも、やっぱりお菓子はよくないけどね」


 奈子の笑顔に魅せられて、せつなも笑みを浮かべていた。同時に、異能部の信頼関係も少し見えたような気がしたせつなであった。

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