ようこそ、異能部へ!(6)
「――〈止まれ〉っ!!」
ひとりの少女の声が、巨大生物の動きを止めた。叫んだ少女の手には、拡声器が握られていた。
胸を撫でおろしたのもつかの間、巨大生物の足止めの効果は短く、再びソイツは口を大きく開きはじめた。
「……っ!」
「――ボーッとしてるんじゃないのっ!」
今度は、別の赤髪の少女がせつなの元へ現れたかと思うと、せつなの身体はフワリと舞い上がった。
正確にいうならば、せつなは赤髪の少女にお姫様抱っこをされたのだ。
赤髪の少女により、巨大生物の口の中に飲み込まれることから難を逃れたせつな。ひと息つく間もなく、次の瞬間、さっきまで自分が立っていた地面から、炎が吹き上がったのだ。
まともに炎をくらい、悲鳴を上げる巨大生物。
しかし、奴は倒れない。身体を火照らせ、怒り狂った様子で、口から粘液のようなものを少女たちに向かって飛ばしはじめた。
見た目に反して、粘液は重い弾丸のような威力を持ち合わせており、地面に落ちた瞬間、凄まじい砂埃をあげ、少女たちに襲いかかる。
「……な、なんなの!?」
「あなた、
赤髪の少女はパニックになるせつなに冷たく言い放つと、巨大生物の方角へ向かって走り出した。
「〈静まれ〉!!」
拡声器を持つ少女は、再度叫んだ。拡声器を通して少女の声があたり一帯に響く。だかしかし、巨大生物の耳にはもう届いていないのか、少女の命令を無視し、反抗するかの如く、彼女に粘液を飛ばした。
「……ヤバ」
「――危ない!」
せつなは、ほとんど本能的に身体を動かしていた。自身の
勢い余って、二人は砂浜に倒れ込んだ。巨大生物はそんな二人を見逃すはずもなく、腹部をポンプにように作用させ、粘液を二人めがけて吐き出した――。
「――させるか!」
二人の前に立ちはだかり、粘液を斬り払ったのは、
奈子は双剣を
「そろそろ、眠ってもらうぞ!」
限界まで飛び上がり数秒滞空すると、慣性の法則にしたがって下降しはじめ、その勢いを乗せて巨大生物に向けて双剣を振り下ろす!
巨大生物の身体は真っ二つに裂け、金切り声を上げながら、ボロボロと砂状に崩れていく。
やがて、それは跡形もなく消えていった――ひとつだけ、青い宝石のようなものを残して。
奈子はそれを拾い、ウエストポーチにしまった。
「な、奈子お姉ちゃん〜!」
危機が去ったのをようやく認識できたせつなは、涙声で奈子の元へ駆け寄り抱きついた。
奈子はそんなせつなの頭を優しく撫でながら、
「もう大丈夫だ。……それにしても、ここで会えるとは思わなかったよ! まさか、せつなが後輩になるなんてな」
と、嬉々とした顔を浮かべた。
「うん! わたしも、奈子お姉ちゃんと同じ学園へ入学できるなんて思ってもみなかった! あのね、わたしね――」
「……コホン。あなた、新入生よね? 最上級生に対して、その態度はどうなのかしら?」
せつなと奈子が再会を喜んでいると、赤髪の少女が二人の間に割り込み、せつなを窘めた。
せつなは慌てて奈子から離れ、姿勢を正し、三人と向かい合う。
「えぇっと、ごめんなさい! 奈子お姉ちゃんは、小さい頃からの友達……それ以上に、わたしのお姉ちゃんみたいに、いつもいっしょにいてくれた人なんです! だから、つい……」
「別に、あなたたちの馴れ初めなんてどうでもいいわ。わたしはね、
せつなは、「ソラ……ビト?」と首を傾げた。
「まあまあ、林檎ちゃん。今日入学したばかりの新入生ちゃんっぽいし、そんなのわからないって〜。それに、ここへ来たくらいだし、きっとこの子は、
赤髪の少女にそう話したのは、拡声器を片手に戦っていた少女だ。さきほどの戦闘時とは打って変わって、のんびりとした口調である。彼女だけは、制服の上に白の毛皮のショールを身につけていた。
続けて、拡声器を持つ少女は、チラリとせつなを見て、
「――だってこの子、どうやら異能が使えるみたいだしねぇ」
と、言った。
赤髪の少女は、不服そうに顔をしかめた。一方の奈子は、またうれしそうに顔を明るくした。
「……せつな、もしかしてここへ来たのは……!」
せつなは自分の目的を思い出し、スカートのポケットから、『入部任命書』を取り出し、奈子へ差し出すように見せた。
「一年、
せつなは最後上目遣いで問うと、奈子は力強く頷き、任命書を受け取った。
「確かに今、入部任命書は受理した。今日から君を、我が異能部の一員として認める」
奈子は言い、次に赤髪の少女を示す。
「こちらが、異能部副部長、
林檎は笑みを見せずに、小さく頭を下げた。
続いて、奈子は拡声器を持つ少女を示す。
「こちらが、部員、
亜仁は挨拶代わりに、胸の前で右手を振った。
最後に、奈子は自身の胸に手を置いた。
「そして、わたしが異能部部長、
奈子はせつなの手を取り、その瞳で真っ直ぐ見つめる。
「異能部は、この学園においての最前線部隊だ。今のようなソラビト退治など、大変なことが多く待ち受けているかもしれない。でも、怖がらなくていい。わたしたち先人が、精いっぱい君をサポートする。これから、楽しく過ごしていこう」
奈子は、無邪気な笑顔を向けて、こう締めくくる。
「――ようこそ、異能部へ!」
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