本文

「書けない……」


白紙の原稿用紙を前に思わず一人でつぶやいてしまった。はじめは何枚だって書ける気がしていたのに。そもそも、こんな紙切れに文字を書くだなんていう、200年も前の慣習をリバイバルさせるな。そう、教師に言いたい。エンピツをこすって鉛を圧着させる原始的な入力方式。資源の無駄。非効率。あーあ、思考をそのまま印刷できればいいのにな。と言っても、その考えがまずまとまらない。とりあえず書き入れた自分の名前にばかり焦点が合う。……何度見てもご先祖様を恨みたい。


田中春日ラングレー。

理由は二つある。本来、ラングレーはドイツ系の姓らしい。それをミドルネームとして残したのだという。じゃあ田中ラングレー春日じゃないのか?これは新しく出会う人に必ず言われる。僕だって困っているが、とにかくそういう方式で行くとご先祖様が決めたらしい。つまり、僕にはそれ以上は説明できない。加えて、外見がまるっきり日本人なのも笑いのタネにされがちだ。それはもう慣れた。だけど――。


そんなことよりも、だ。何を書けばいいのか一向に浮かんでこない。

何かこう、閃かないものか。考えなくちゃ。


『白波さん可愛いよな』

『源藤先生とデキてるらしいぜ』

『うっそ?マジ?』


どうでもいいクラスメイトとの会話が浮かんだ。どうでもいい。


『よう田中!グーテンモルゲン!』

『イッヒフンバルトヘーデル!』

『ぎゃはははは』


ぷ。どうでもいい。


――もう14歳か。昔は良かったな。

僕はもっと、何か優れた存在になりたかった。


「……こんなんじゃ、ダメだ」

最近、独り言が増えた。






そうだ、宇宙行こう。

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⑤新世紀エターナルフォースブリザード(仮称) にごる @kakunigoru

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