14 吸血鬼の様子もおかしい件
倉石さんと別れ、部屋に帰ると、そこには兄の姿しかなかった。
「あれ、メイは?」
「行くところがあるとかで、今日は夕飯作れないとさ」
この一ヶ月間、メイが一人で出ていくなんてことはなかった。一体どうしたのだろう。倉石さんのことと関係があるのかな。
あたしたちは仕方なく、コンビニへ行ってお弁当を買ってきた。兄と二人だけの食卓はどこか寂しい。
「ねえお兄ちゃん。メイの様子、おかしかったよね」
「ああ。お前の先輩、倉石さんだったか。その人と会ってから、ずっと何かを考え込んでいる様子でな」
「もしかして、なんだけどさ。メイって前は倉石さんの所に住んでたんじゃない?」
あたしの推論に、兄はこう答える。
「いや、俺もそう思ってな、冗談めかして聞いてみたんだよ。そしたら違うってさ。多分嘘は言ってない」
ううむ、謎だ。二人の間に何かあるのは確実なのに。
その日は結局、メイは帰ってこなかった。
戻ってきたのは、翌日の昼になってから。休みだったあたしは、ちょっと緊張しながらメイを出迎えた。
「おかえりなさい」
「ただいま。遅くなって済みませんでした」
メイはどこかやつれた様子だ。まあ、吸血鬼だから元から顔色は悪いんだけど。
「いきなりですけど由香。僕はこの町を出て行こうと思います」
まさかの言葉に、あたしはびっくりを通り越して絶句する。
「礼に、この手紙を渡しておいてください。そして、別れを告げることもできず、申し訳ないと伝えて下さい」
「ま、待って!いきなりどうして!」
メイはじっと目を閉じ、苦しそうに言葉を吐き出す。
「倉石さんという方。吸血鬼を狩る一族の末裔なんです。本来ならば、僕は彼女に討伐される存在です」
「じゃあ、倉石さんが襲ってくるから逃げるってこと?」
「いいえ。昨日、倉石さんと話し合ってきました。僕が人を襲わない、温和な吸血鬼だということを弁解したんです」
「それならどうして!」
「彼女にも責務があります。吸血鬼を見つけた以上、倒さねばならないのが彼女の使命。それを回避するため、僕に逃げられたということにするんです」
話はわかった。でも、わかりたくない。
メイが居なくなる。この一ヶ月間、共に暮らしてきたメイが。
「嫌だよ、行かないで! 倉石さんにはあたしからも言うから!」
「もう決まったことです。それに、僕はそろそろ、礼の元を離れなければならないと思っていました。どうにも居心地が良くて、言いだせなかったんですけどね」
メイは悲しそうに笑う。あたしはそんな顔を見たくない。あたしはがしっとメイの冷たい腕を掴む。
「行かないで……」
ボロボロと流れ落ちる涙。止まらない。どうしようもない。
「引き止めてくれてありがとうございます。この一ヶ月間、とても楽しかったですよ」
メイはあたしの手を取り、そっと引きはがす。
そうして吸血鬼は、荷物も持たずにこの部屋を出て行った。
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