13 先輩の様子がおかしい件

 平日の昼下がり。いつもは女性客ばかりの雑貨屋に、男の二人連れがやってきた。


「ぎゃっ! なんでお兄ちゃんがここに来るのよ!」

「仕返しだ」


 そう言って意地悪く笑う兄と、興味津々に品物を見ているメイ。


「とても可愛い雑貨屋さんですね。由香もそのエプロン、よく似合っています」

「えへ、そうでしょ?」


 一気に機嫌をよくしたあたしは、他のお客さんもいないことだし、と立ち話を始める。


「お兄ちゃん、何か買っていってよ」

「そう言われてもなあ。女物ばっかりじゃねえか」

「礼、折りたたみ傘が壊れたと言っていませんでしたか? これなんか、男性でも持てそうですよ」

「確かにそうだな」


 兄は紺色の折り畳み傘を手に取り、しばし悩んだ後、あたしに突き付けてくる。


「これ下さい」

「了解です」


 あたしが会計をしていると、バックヤードで事務仕事をしていた倉石さんが戻ってくる。


「あら、三島さんのお知り合い?」

「そうなんです。こっちが兄で、こっちが兄の友人です」

「いつも由香が世話になっています」

「いえ、こちらこそ」


 倉石さんはいつもの柔和な笑顔で兄を見て、そしてメイの方に向き直って――顔色を変える。そしてそれは、メイも同様だ。


「はじめまして。由香の兄の友人です」

「倉石です」


 どこか冷たい風が吹き抜けているかのように、ピリピリとした感覚。だけどそれも、すぐに途切れる。


「ゆっくり見ていってくださいね?」


 恐る恐る倉石さんの顔を覗き込む。だけどそこにあったのは、変わらず優しく暖かな笑顔だ。


「由香、頑張ってくださいね」

「あ、うん。ありがとう」


 そうして二人は行ってしまった。あたしは恐くて、倉石さんにさっきの様子のことを尋ねることができない。そうこうしていると、新しいお客さんがやってくる。あたしは気持ちを切り替え、接客にあたる。

 アルバイトが終わった帰り道。あたしは倉石さんに、こんなことを聞かれた。


「お兄さんのご友人っていう方は、いつから居候を?」

「私の来る半年前ですから……今からだと、七ヶ月前ですかね」

「そう。そうなの」

「な、なんでですか?」

「少し気になっただけよ」


 もうそれ以上のことは聞けない。メイと倉石さんは、もしかして知り合いなのだろうか。

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