11 今度こそバイトをする件
皮膚科へ行き、肌荒れが治まるのを待って、あたしは次の候補先に電話をかけた。二回目だから、スムーズにいった。
今度は駅前にある、アクセサリーなんかを扱う雑貨屋さんである。ドーナツ屋さんの時と同じように、張り切って面接に臨む。
「受かった! 受かったよ!」
「さすが由香ですね」
「ふん、大学は受からなかったくせに」
トラウマをえぐられたあたしはキッと兄を睨みつける。
「ちょっとそこ、余計なこと言わないでよ」
「はいはい。まあ次は、せいぜい頑張ってくれ」
兄はコーヒーをずるずる飲みながら、軽く指を回す。
「それで、雑貨屋さんはどんな雰囲気でしたか?」
メイが聞いてくる。
「えっとね、店長さんも先輩も、みんな女の人なの。だから親しみやすい感じだったよ」
「ほう、それは良かった。可愛がってもらえそうですね」
「虐められなきゃいいけどな」
「だから余計なこと言うなっつうの」
面接してくれた店長さんも、レジに居た倉石さんも、絶対にそんな人じゃない。あたしは大きな希望を抱えながら、初出勤した。
開店前、店の前と窓ガラスを掃除したあたしは、倉石さんに物の場所を教わっていた。
「ラッピング類は、ここにあるからね。でも、ラッピングはまた後で教えるから、ご依頼があったら、まず私に言ってね」
「はい!」
倉石さんは、メガネをかけた、とっても色白の女の人だ。でも冷たい印象はまるでなくて、小学校の先生みたいである。
「ふふ、三島さんは元気がいいわね。その調子で、接客もよろしくね」
元気がいい。ドーナツ屋の店長さんにも言われた言葉だ。働いた経験は三日分しかないけど、この雑貨屋でもあたしは充分やっていけるかもしれない。
「さて、開店ね。ブラインドをあげてちょうだい」
「わかりました!」
その日は平日だったので、そこまで混むこともなく、無事に一日目を終える。帰りは倉石さんと同じ方向だったので、一緒に帰る。
「お兄さんと一緒に住んでるんだ?」
「はい。あとはきゅ……兄の友達も居候してます」
「えっ、じゃあ身内じゃない男の人と一緒に暮らしているの?」
倉石さんはとことん驚いた表情をする。今さらながらに、あたしは今の自分の状況がちょっぴり(大いに?)異常であることを確認する。
「でも、すっごく優しい人で、家事もしてくれて、助かってます」
「そう。三島さんはちょっとユニークなのね」
変わってる、と言わない所が倉石さんの優しさなのだろう。
あたしたちは交差点で別れる。そして、兄と吸血鬼の待つ部屋へ帰るのであった。
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